トップシークレット・アメリカ D・プリースト、W・アーキン著肥大化した米情報組織の内幕

2013/12/25付

先の国会で最も論議を呼んだのは特定秘密保護法であった。メディアや野党の批判にも関わらず、政府が制定を急ぐ理由として挙げたのは、海外、特に米国との情報(インテリジェンス)共有のための必要性だった。確かに現代の安全保障政策において情報が占める比重は増大しており、アメリカは情報収集において世界の最先端を歩んでいる。しかし9・11事件後の「テロとの戦い」によって急拡大したアメリカの情報活動には、近年きしみが目立っている。ウィキリークスを通じた外交情報の大量漏洩や、ロシアに亡命したスノーデンによる暴露はアメリカの外交的立場を揺るがせた。

(玉置悟訳、草思社・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 本書は法に触れる内部告発ではないが、ベテランの軍事ジャーナリストと元軍人アナリストが肥大化したアメリカの情報組織の割れ目からその内幕を覗(のぞ)き見たルポである。千以上もの政府組織がそれに倍する民間会社と契約し、暗号めいた名称を持ち、地図に記載のない場所で情報活動に従事している。政府高官もその全体像を把握できていない。

 その一方で、今日では情報活動が軍事作戦にも直結するようになっている。典型的なのはパキスタンなどで行われてきた無人機による対人攻撃である。情報活動によって探し出した「ターゲット」に対する攻撃は、ワシントン郊外のオフィスから映像を見ながら指揮されるという。著者の一人が立ち会った作戦指揮の描写からは、アメリカらしい法的規則に則(のっと)って行われるものの、道義的にも実際的にも危うさを隠せない武力使用の姿が見える。

 冷戦たけなわなりし頃、アイゼンハワー大統領が退任演説で「軍産複合体」について警告を発したことは人々を驚かせた。強大な軍事機構を率いつつも、その危険を忘れないのがアメリカ社会の強さなのだろう。その意味で本書のような告発本もアメリカの健全さの表れと言えよう。

 冷戦時代に比べて情報の世界は表に出るようになった。しかしその世界の影の部分を忘れてはならないだろう。

(京都大学教授 中西寛)

[日本経済新聞朝刊2013年12月22日付]

トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家

著者:デイナ プリースト, ウィリアム アーキン
出版:草思社
価格:2,730円(税込み)