2013/12/24

さらに「情報の非対称性は世界経済を混乱に陥れる原因になったといえます」とその重大さを指摘した。その事例が08年のリーマン・ショックを招いた米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)問題だという。

投資家は当初、格付け会社の情報を信用し、サブプライムローンを組み込んだ金融商品を安全で利回りが高いと判断して購入し続けた。ところが米国で住宅バブルがはじけると、金融商品自体の価値がどれだけ下がるのか分からない不安が世界中に一気に広まった。情報不足による疑心暗鬼もあって投資家は金融商品の売却に動き出し、金融市場全体を危機に陥れたのだ。

章司はひらめいた。「食品偽装を防ぐには『情報の非対称性』が解消されるよう、同じ食材は同じ値段にすればいいんですね」。それを聞いた柳川さんは、静かに首を振った。「それでは消費者の選択肢が狭まってしまいます」。消費者はそれぞれの好みや価値観で食品を選んでおり、特定の産地を選んで応援したい人もいるからだ。

「では虚偽表示を防ぐにはどうすればいいでしょう」。章司の質問に、「厳罰で対処するしかないですね」と柳川さん。厳罰になるのであれば、経営リスクが大き過ぎて虚偽表示は割にあわなくなる。

消費者庁は今回、虚偽表示した企業を行政処分したほか、不当表示をした業者に課徴金を科す制度の検討を進めているが、実際には処罰の線引きや定義など難しい問題がある。柳川さんは「信頼できるマーケットを守るには消費者の監視も欠かせないですね」と締めくくった。

そこで消費者問題に詳しい慶応義塾大学教授の中島隆信さん(53)が補足した。「表示偽装が横行しないよう、消費者も賢くならないといけませんね」。安全性や等級など客観的な基準は大切だが、産地やブランドを重視しすぎたり、高い値段であれば高品質だと妄信したりしていると、虚偽表示を招く温床になりやすいと中島さんは指摘した。

章司は事務所に戻って「わが事務所も依頼を受けやすいよう、探偵の能力を表示してみましょうか」と章司が提案した。すると所長が一言。「虚偽表示と言われないよう成果を上げてくれよ。さもないと“厳罰”が待っているぞ」

(山川公生)

[日経プラスワン2013年12月21日付]