茶席の作法、これだけ知っておけば安心
「お先に」の一言が大切
「菓子はいつ、どうやって食べるの?」「茶わんを回すのはどうして?」。お茶の作法には疑問がいっぱいだ。
師走、東京ドームホテル(東京都文京区)の一室は静寂な雰囲気に包まれていた。裏千家今日庵(こんにちあん)が開く初心者向けの茶道教室。半年かけてお茶のいただき方やたて方の基本を学ぶ。「立礼(りゅうれい)式」と呼ぶ椅子に座ったお茶席で20~40代前後の女性が参加していた。
目の前に菓子鉢に入った菓子が運ばれて来る。もてなす側(ホスト)を亭主と呼び、客は「お菓子をどうぞ」と勧められてから手を伸ばす。
先生が女性に「お隣に『お先に』と言ってください」と助言した。「お先にちょうだいしますの意味で、同席者への心配り」と、裏千家淡交会東京第一東支部幹事長の吉田宗雅さんは解説する。抹茶の入った茶わんでも同様にする。
菓子の器を両手で持って少し持ち上げ、軽く頭を下げ神仏に感謝する。懐紙(かいし)の輪を自分に向けて菓子鉢の間に置き、箸で1つ取る。懐紙は皿やティッシュペーパーのように使う。箸は菓子を置いた懐紙の端でぬぐってから、鉢の上に元あったように戻す。
器を隣に送った後、菓子は懐紙ごと口元近くに運び、添えられたようじで切り、軽く刺す。抹茶を飲む前に菓子を食べきるのが作法だ。懐紙とようじは持ち帰る。
食べ終わるのを見計らい、お茶が運ばれる。菓子と同様に隣人に「お先に」と言い、亭主には「お点前(てまえ)頂戴いたします」と言って頭を下げて、軽く茶わんを上げ神仏に感謝を示す。
茶わんは左手にのせて軽く右手を添える。飲むときに特に気をつけたいのは「お茶わんの正面から飲まないこと」と話すのは、池袋コミュニティ・カレッジ(東京都豊島区)で教える表千家教授の八代宗晴さん。
茶わんは出されたときに自分の方に向いているのが正面。絵柄があることも多い。亭主は正面を客に向けるが、客は茶わんを大切にするため正面を避けて飲む。「化粧などの油分が正面につき、汚れないように」との配慮だ。流派によって多少異なるが、2度に分けて茶わんを回す。
飲むのは3口半が理想だが、前後してもいい。飲み終わったら右手親指と人さし指で軽く飲み口を拭き、手は懐紙でぬぐう。茶わんは先ほどと反対に回して、正面を亭主側に戻して置く。
茶わん正面避けて飲む
お茶の心得でよくいわれる「一期一会」。今この時間、集う人との関係は二度と同じものはなく、かけがいのないものだという意味だ。「亭主のもてなしの心に対して、時間を気にするのは失礼にあたる」(八代さん)ため、着席前に時計は外すのが礼儀だ。
「時を忘れ、和敬清寂の精神を感じてほしい」(吉田さん)。五感で釜のシューッという音を聞き、香を楽しみ、道具を眺め、触って、菓子とお茶を味わう。教室に通う女性たちも「身が引き締まり、すがすがしい」などと話す。
茶席ではお道具拝見も作法の一つ。亭主は四季や歳時記、「平和」などのテーマで、道具を客に合わせて用意する。これを「しつらえ」という。
正式の茶席では客の代表の「正客(しょうきゃく)」が亭主の思いをくみ取って、しつらえの意味などを尋ねる。「知らないのは恥ではない。どんな茶わんで飲ませてくれているのか、掛物の文字は何と読むかなど尋ねてみてほしい」(八代さん)
(吉野真由美)
[日経プラスワン2013年12月21日付]
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