劣化国家 ニーアル・ファーガソン著経済活動支える制度の変遷を考察

2013/11/18

リーマン・ショックやユーロ危機、度重なる経済危機を経て、これまで自由主義を唱え繁栄を謳歌してきた西欧諸国は、近年その輝きを失いつつある。その一方で、長い間低迷を続けてきた中国やインドといった新興国が、その成長の速度を上げ、西欧諸国との格差を急速な勢いで縮め始めている。中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になる日も、そう遠くないであろう。著者が、「大いなる再収斂(れん)」と呼ぶ世界経済の新しい流れをどう理解したらよいか。本書を通じて追求されたテーマである。

(櫻井祐子訳、東洋経済新報社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 同様のテーマは、多くの研究者にとって最大の関心事の一つであり、様々な論者によって盛んに取りあげられている。しかし、著者は、過剰債務の蓄積やグローバル化の進展など、狭い意味での経済的視点に基づいた議論では問題の本質を見誤ると指摘。民主主義、資本主義、法の支配、市民社会といったこれまで西欧の繁栄を支えてきた制度の衰退が、問題の根底にあると主張する。

 著者は、世界的にその名が知られた歴史学者。歴史家ならではの視点から、産業革命以前から今日に至るまでの数百年の歴史をひもときながら問題の本質に迫っていく。しかも、政治、経済、法律に至るまで各分野での研究成果を著者なりにそしゃくし、新たな洞察を導いている。そのスタイルは、多くの読者をひきつけるには十分なものだ。本文中で垣間見ることができる多岐にわたる著者の幅広い素養にも、しばしば驚かされる。なかでも、法制度と経済活動の関係を論じた第3章は、最近の経済学でも大きな注目を集めているテーマで、そこで展開された議論は刺激的であった。

 足元では新興国経済の減速がさまざまな形で顕在化しており、西欧諸国と新興国の「大いなる再収斂」が今後どこまで順調に進行していくのか、不確定要素がないわけではない。ただ、経済活動を背後から支える制度のあり方や変遷を考察し、それが経済的繁栄や衰退の本質にあるという著者の視点は、経済成長を考え直す良い機会を提供してくれる。記述は平易であり、幅広い読者にぜひ読んでいただきたい本である。

(東京大学教授 福田慎一)

[日本経済新聞朝刊2013年11月17日付]

劣化国家

著者:ニーアル ファーガソン
出版:東洋経済新報社
価格:1,680円(税込み)

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