悪の法則
スリラー彩る映像美
冒頭のラブシーンから画面にぐいぐいと引きこまれる。カウンセラーと呼ばれる若い弁護士(マイケル・ファスベンダー)と恋人のローラ(ペネロペ・クルス)。白いシーツにくるまって抱き合う2人の濃厚な愛の交歓を、カメラはなめまわすようにとらえる。
メキシコ国境に近いテキサスの町。カウンセラーは友人のライナー(ハビエル・バルデム)が営む高級レストランでローラにプロポーズする。アムステルダムで買い求めた高価なダイヤモンドの指輪をもって。
幸福の絶頂にある2人だが、ここから物語はジェットコースターのように恐怖のどん底へ急降下する。
豪邸に愛人のマルキナ(キャメロン・ディアス)と住み、草原でチーターを使った狩りを楽しむライナー。そのビジネスには裏社会のブローカー、ウェストリー(ブラッド・ピット)もかかわっていた。ウェストリーは取引相手のメキシコ人組織の残虐さをカウンセラーに語るが、やがてそれが現実のものとなる。
正体の見えない組織に追われるウェストリー、ライナー、カウンセラー。彼らが何をしたのか、なぜ狙われるのかは、つまびらかでない。ただ、次々と恐怖がふりかかる。危機を悟ったカウンセラーはローラと共に、逃亡を急ぐが……。
血も凍るような組織の報復が彼らの身に及ぶまでの伏線は周到に張られているが、そもそも何があったのかは明らかにしない。スクリーンに描かれるのは快楽や恐怖、不安や動揺という登場人物の動物的な心理だけだ。華やかなスターたちの存在感と鮮やかな映像美が非情なスリラーを彩る。
物語のつじつまより、その瞬間の恐怖を映像で表現する。「エイリアン」「テルマ&ルイーズ」のリドリー・スコット監督が豪華な俳優陣を得て、弟の故トニー・スコット監督ばりにスターの魅力を引き出した。1時間58分。
★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2013年11月15日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。