「自分の一冊」ネットでお手軽出版 印刷でも安く
「自分の旅行記が沢木耕太郎の『深夜特急』と並んで売られているなんて」。会社員の吉田顕一さん(40)は昨年12月、アマゾンジャパン(東京・目黒)の「キンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)」を使って出版を始めた。学生時代の海外旅行記やトライアスロン大会の体験談など電子書籍にまとめ、現在は10冊をアマゾンの電子書店で販売している。
印税を取材資金に
KDPは著者が原稿を執筆し、書籍データをアマゾンに送付。価格や配信する国、言語などを選ぶと48時間以内に発売する仕組みだ。吉田さんはブログなどで書きためていた記事を電子書籍向けに加工し、出版している。「驚くほど簡単。最初の1冊は夜にスターバックスで作業して、翌日昼には本になっていた」と振り返る。
KDPの出版費用は無料。本の価格は99円以上から自由に決めることができ、本が売れると価格の35%か70%が印税として著者の銀行口座に振り込まれる。吉田さんは7冊を99~100円(印税率35%)、3冊を250円(同70%)で販売したところ、多い時は月1万~2万円の収益をあげたという。出版活動はあくまでも趣味の範囲内にとどめ、売り上げは新作を書くための旅行資金に充てている。
アマゾンはKDPの国内サービスを昨年10月に始めた。販売実績は明らかにしていないが、ダイエット本や投資術などの実用書が多いという。友田雄介キンドルコンテンツ事業部長は「売り上げを伸ばすには発売してから最初のひと押しが重要」と話す。例えば上下巻の場合は上巻の価格を安くするといった工夫で購入者を増やす。
電子書籍ではなく、紙の印刷物として出版したい人にはデザインエッグ(大阪府東大阪市)の「MyISBN」がおすすめだ。著者が原稿データをネットで送ってアマゾンで販売する仕組みだが、消費者の注文を受けてから本として印刷し、郵送する点が新しい。利用料は1回の発行当たり4980円。販売額の10%を印税として著者に振り込む。デザインエッグの佐田幸宏社長は「技術書や教科書などは作業や勉強をしながらページをめくるため、電子書籍より紙のほうが向いている」と話す。
在庫のリスクなし
同社によると自分の授業で使う教科書を自費出版する大学教授は多いが、従来の自費出版の仕組みだと印刷コストが50万~100万円のケースが多かったという。1回に印刷する冊数も多く、何年も同じ本を売り続けるという事態になりかねない。MyISBNの仕組みなら在庫を抱えるリスクがなく、手軽に内容も改訂できるという。
実際の店舗での販売も始めた。6月から全国の三省堂書店で販売。原則取り寄せだが神保町本店(東京・千代田)なら店頭で印刷・製本ができる。今後も提携先を増やして販路を広げる考えだ。
小説やマンガの投稿サイト「E★エブリスタ」は出版社から作家としてデビューしたい人向けだ。投稿数が200万以上にのぼる有名サイトで、多数の人気作品を出版社が書籍にして販売している。
このほど出版社の三交社(東京・千代田)と協力し、恋愛小説レーベル「エブリスタWOMAN」を立ち上げた。今後は毎月、人気作品を文庫にして売り出す計画で、作家デビューの可能性が広がる。
もちろんサイト上で小説やマンガの電子書籍を販売できる。価格設定は自由で無料配信も可能だ。連載中に読んだ人が感想を書き込めるのが特徴。読者の反応を見ながら物語を微調整する作家も少なくない。
自己出版の市場はアマチュア作家の作品が多いが、小説「ジーンマッパー」のヒットで知られる藤井太洋氏のように自己出版出身の「プロ」の作家も出てきた。趣味の延長で作家デビューを夢見るのもいいだろう。
(消費産業部 阿曽村雄太)
[日本経済新聞夕刊2013年11月14日付]
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