国立劇場11月公演「伊賀越道中双六」敵討ちの世界、簡潔にまとめる

「伊賀越道中双六」といえば伊賀上野の荒木又右衛門の敵討ちを題材にした芝居だが、現在では脇筋に当たる親子対面の人情劇「沼津」のみが名作として繰り返し上演され、本来の主筋である敵討ちの物語の方はなじみが薄くなっている。国立劇場でこの作品を通し上演するのは3度目だが、今回は発端の和田行家(ゆきえ)殺害、政右衛門(史実の又右衛門)が妻のお谷を離別して7歳のその妹と再婚する「饅頭(まんじゅう)娘」、主君誉田大内記(こんだだいないき)に剣の極意を伝授して出立する「奉書試合」、大詰め伊賀上野の「敵討」の各場を「沼津」を挟んで出す。40余年来上演を絶っている最難関の場「岡崎」は今回も見送りだが、伊賀越の世界を簡潔に見せるという意味では要を得た上演といえる。

橋之助の政右衛門は時代物役者としての風趣がよく、映画や講談で知られた剣豪のイメージも満足させつつ、中幕「沼津」の重量感との均衡もよく保っている。加えて彦三郎、萬次郎らのベテラン、孝太郎、市蔵、亀蔵、亀鶴、橘太郎ら中堅の実力者たちが脇の重要な役を支えて、なじみの薄い各場をしっかりと見せたのは褒められる。山田庄一監修の脚本が、あれもこれもと欲張らずエッセンスを適切に伝えることに徹したのもよかった。国立劇場として残る仕事は一線級の役者が健在な今、「岡崎」上演を敢行して次代へ伝承することだろう。

「沼津」は坂田藤十郎の十兵衛に翫雀の老父・平作、扇雀のお米と成駒屋一家3人の水入らず。若すぎるのが懸念された翫雀が懸命の努力で熱演、相当のレベルで乗り切ったのは称賛されてよい。次からはもっと緩急よろしきを得るようになれるはず。扇雀もみずみずしさがいい。八十翁の藤十郎の元気さには脱帽するが、自在の境地に入ってか間投詞の過多が少々気になった。26日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

注目記事