とっぴんぱらりの風太郎 万城目学著「忍び」の奇想天外な物語

2013/10/29

デビュー作『鴨川ホルモー』で京都を舞台に鬼や式神を操って争う謎の競技に打ち込む大学生の姿を描き、『鹿男あをによし』で一介の高校教師が奈良公園の鹿の命を受けて日本滅亡を防ぐために奮闘するさまを描き、『プリンセス・トヨトミ』で独立国家となった大阪の秘密を壮大なスケールで描いた万城目学が、2年ぶりとなる大長篇(へん)で選んだ題材は忍びの世界。豊臣から徳川へと天下が移り、日々平安なる慶長の世、不運が重なって伊賀を追い出され、ニート忍者になってしまった風太郎が京都に流れていくエピソードから、この時代小説の幕は開けるのだ。

(文芸春秋・1900円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 その日暮らしをするうち、20歳になってしまった風太郎のもとに、ある日、一緒に伊賀を追い出されたかつての相棒・黒弓が来訪。天川(マカオ)出身で、南蛮語ができることを活(い)かした渡来品を売る商いで今や羽振りがいいらしい黒弓が告げた伝言によって、風太郎の人生は思わぬ方向に転がり出す。忍び出身で萬屋という店を開いている義左衛門が、清水寺に行く途中にある店「瓢六」に30本のひょうたんを届けるよう頼んできたのだ。その夜、ひょうたんから現れ出(い)でたのが、因心居士と名乗る2千年もの昔からひょうたんに宿っているという仙術使い。言うことをきかなければ、ひょうたんの中に閉じこめると脅す因心居士が、次から次へと課してくる身勝手なミッションをクリアしていくうちに、風太郎は豊臣VS徳川最終決戦の地・大坂城は天守閣を目指すことになるのだ。

 史実を背景にした奇想天外な物語が生む笑いと感動。ページを繰る指がとまらない展開の妙。どこまでも不運な風太郎、無邪気でおっちょこちょいな黒弓をはじめとする忍者たちや、風太郎の宿敵となる剣の達人・残菊の一派といった、登場人物の造型の魅力。アクションシーンにおける臨場感。つまり、娯楽小説に求めるものは、すべてこの中にある。「とっぴんぱらりのぷぅ」とは昔話の結語に使われる言葉だけれど、この作品に関してはふさわしくない。いつまでも読み終わりたくない――そう思わせる、これは万城目学の現時点での最高傑作なのである。

(書評家 豊崎由美)

[日本経済新聞朝刊2013年10月27日付]

とっぴんぱらりの風太郎

著者:万城目 学
出版:文藝春秋
価格:1,995円(税込み)

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