三月 大島真寿美著友情の原風景 巧みな描写

2013/10/3
(光文社・1500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

20年間会わなくても友は友だ。その真実を、本書は鮮やかに描きだしている。

 特に、まだ将来の進路が決まる前、いわば人生の、いちばん危なっかしい時期を、たとえそのとき無駄話しかしなかったとはいえ、濃密な時間を共有した相手は得難い。20年ぶりに会った瞬間に、気持ちはゆるやかに溶けていく。

 20年もたてば、いろいろある。領子は長らく勤めた雑誌社が潰れて職を失っている。恋人もいないし、犬と暮らしている日々だ。花もまた一人暮らしで、両親の看護に追われ、昔の恋を時折思い出している。明子は子持ち男と結婚して特に不満もなかったが、その娘が友達への電話で明子のことを「あいつ」と呼んでいるのを聞いて、心がざわついている。子供の出来ない穂乃香は、それが自分の罪の現れではないかという思いの中にいる。彼女たちを東北に呼んだ則江は、夫を疑う日々にいる。

 20年ぶりに会ったからといって、彼女たちがかかえる問題は何ひとつ解決しない。しかし明日を生きるエネルギーを与えてくれる。その友情の原風景を、巧みな構成で描く大島真寿美の傑作だ。

★★★★

(文芸評論家 北上次郎)

[日本経済新聞夕刊2013年10月2日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

三月

著者:大島 真寿美
出版:光文社
価格:1,575円(税込み)

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