月のクレーター、双眼鏡でも鮮明 秋の天体観測入門
まずは庭やベランダで
「天体関連の施設やイベントを調べ、よく出かけます」。8月24日夜、国立天文台(東京都三鷹市)で星を観測する催し「観望会」に参加した東京都内在住の20代女性2人は話した。同日の観測は残念ながら曇天で中止だったが、使うはずだった大型望遠鏡を眺め、「ぜひこれで星を見たい。また来ます」と帰路に就いた。
国立天文台ではこんな女性グループが「ここ数年で目立って増えた」(小野智子広報専門員)。金環日食などで関心を持った人に加え、月や天の川に興味を持つ人もやってくる。小野さんは「『山ガール』などアウトドア派女性が増え、その流れで天体観測を始める例も多い」とみる。
小野さんは「最初は身近なところから。都心でなければ自宅の庭やベランダでも意外に見える」と話す。自宅から行ける距離に天文台があれば「観望会」の予定も調べたい。夜の外出は安全面の配慮が欠かせず、初心者には不安な面もある。自宅や多数が集まる天文台から始める方が無難だ。
街灯、自動販売機が周りにない公園やキャンプ場も候補地になるが、こうした場所はいきなり夜に行くのではなく、日中に安全確認を済ませよう。鋭い傾斜など危険な場所がないか、携帯電話の電波が入るかをチェックする。できれば付近の住民に治安なども聞いておくと安心だ。実際に夜間に訪れるときは複数で行動するのも原則だ。
場所が決まったら、次は装備を整える。必需品は時計、方位磁石、懐中電灯、それに書店で買える星座早見盤だ。天体観測機器メーカーのビクセン(埼玉県所沢市)で女性向けの広報活動を担当する岩城朱香さんは「時計や磁石はスマートフォンで代用せず、アナログのものを」と話す。
星を見るには目を暗さに慣らす。スマホの光を見ると「暗さに慣れた目ももとに戻ってしまう」(岩城さん)。同じ理由から、懐中電灯にも赤いセロハン紙を貼るなど、目への刺激を少なくする工夫が必要だ。
月、倍率6倍の双眼鏡でも鮮明に
もう一つ、忘れてはいけないのが防寒着。これからの季節、昼は暑くても夜は急激に冷える。秋は風を遮るレインコートなどを、冬場にはさらに厚手の上着、手袋や帽子などを準備したい。
観測機器は持ち運びを優先して選ぶ。望遠鏡キットの付いた天体観測ガイド本「世紀の天体ショー観測用望遠鏡BOOK」を今月下旬に出版する宝島社の清水弘一さんは「女性初心者は携行しやすい双眼鏡がおすすめ。望遠鏡でも最初は倍率の高さより、軽さやコンパクトさを重視して選ぶ方がいい」と助言する。
初心者におすすめの観測対象は月だ。国立天文台の小野さんは「双眼鏡1つでもいろいろな見方が楽しめる」と話す。例えば、クレーター。環境のよい場所なら、倍率6倍程度の双眼鏡でかなり鮮明に見えるという。
最適なのは半月のころだ。クレーターの影が長く伸び、立体的に浮かぶ。細いときは暗いために見えづらく、満月のときもクレーターの影ができにくいので見えづらい。
三日月より少し細い時期、月の黒い影の部分がうっすら光る「地球照」も観測してみたい。地球に反射した太陽光が影の部分を照らす現象で、双眼鏡で見ると幻想的な雰囲気を楽しめる。
9月は「中秋の名月」の時期でもある。じっくり眺めれば、ほかにも新たな発見がありそうだ。月の満ち欠けは国立天文台ホームページでわかる。新月の時期の調べ方を知っておくと、他の天体を見るときにも役立つ。観測入門にはうってつけの天体というわけだ。
一方、9月は火星や木星などの太陽系惑星は観測しにくい時期。月観測に自信がついたら「すばる(プレアデス星団)に挑戦しては」と小野さん。双眼鏡でも20~30の星が集まる様子を確認でき、眺めていて楽しい。
ビクセンの岩城さんや宝島社の清水さんは「9月から経験を積めば『アイソン彗星(すいせい)』の観測に間に合う」と指摘する。11月末から12月に観測できる彗星で、今年最大級の天体ショーだ。自分に合う観測場所の選定や観測の基礎学習を済ませておけば、今年末は星空の下、貴重な思い出をつくれるかもしれない。
(堀大介)
[日経プラスワン2013年9月14日付]
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