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大野麥風展魚との対話続けた画家

2013/9/13

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「魚の画家」とは、なるほどよく言ったものである。東京・丸の内の東京ステーションギャラリーで開かれている「大野麥風(ばくふう)展」は、さまざま魚類を描いて輝きを放った異色の画家の画業を、江戸期の博物画とともに紹介している。

浮世絵の伝統を継ぐ手摺(ず)り木版画に描かれた魚の数々は、特徴的な姿形を色鮮やかにまとって、どこかユーモアさえたたえている。

1888年(明治21年)東京に生まれ、関東大震災後に関西に移り住んだ麥風は、村上華岳や土田麦僊ら京都の俊英と同世代の画家である。しかし、画壇で注目を浴びた彼らとは対照的に、大正期までは至って地味。洋画から日本画へ移って描いたころの絵を見る限り、南画志向と和洋折衷という時代の流行の中に、個性は埋没している。

淡路島転居後、兵庫県西宮市に移住してから、麥風は釣りを愛好し、パラオやサイパン、琉球への写生旅行にも出かけて、魚への興味を募らせてゆく。その情熱が、一世一代の仕事となって開花する。1937年から44年まで続いた木版画集「大日本魚類画集」(西宮書院)の刊行である。

「飛魚」は、胸びれを羽ばたかせて海上を飛ぶ魚の姿態を、ストップモーションのように描き出した。うろこのひとつひとつまでリアルに描いた画面からは、ひたむきに飛ぶ魚への愛着がにじみ出るかのよう。背景の海は、どこか浮世絵ゆずりの様式美を感じさせる。

一方、「ニシン」や「カツオ」といった魚では、群泳する姿をアップで描く。手前と奥で、微妙に濃淡をつけながら、水中できらめく魚影を、巧みに写しとっている。

麥風は水族館に行くだけでなく、潜水艇に乗り込んでまで魚の姿を観察したという。日本中が戦争に突き進む時代に魚に魅いられた男がいた。画面は魚と無心の対話を続けた画家の心模様さえ映し出している。23日まで。

(編集委員 宮川匡司)

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