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舞台・演劇

ヴェニスの商人 突出した猿之助の演技

2013/9/16 日本経済新聞 夕刊

蜷川幸雄演出のシェークスピア劇シリーズの中で今回の「ヴェニスの商人」は、市川猿之助ありきの舞台であった。歌舞伎の型を意識した大仰なしぐさのユダヤ人高利貸しシャイロックを猿之助が造形。キリスト教社会から異端として排除されるユダヤ人の怒りを体全体でにじませる。

舞台は貿易都市ヴェニス。貿易商アントーニオ(高橋克実)は、大富豪のポーシャ(中村倫也)と結婚したいという友人のバサーニオ(横田栄司)のためシャイロックからの借金の保証人になる。期日通り払えなかったら胸の肉1ポンドを切り取るというのが条件だった。持ち船が戻らず払えなくなったアントーニオに対し、復讐(ふくしゅう)を狙っていたシャイロックは証文通り実行するよう裁判所で主張する。

「ヴェニスの商人」は、悲劇的にも描けるが、猿之助の過剰な演技をはじめ、その他の場面でも喜劇的要素を際立たせており、基本的なとらえ方は喜劇となっている。

この舞台は「オールメール・シリーズ」と銘打たれ、全ての役を男性キャストが演じる。ポーシャと侍女が裁判では男装し別人で登場するが、女優がやると演じ分けが難しいところ、男優だと違った人物に見えて成功している。

とはいえ、よきにつけあしきにつけ猿之助の存在感が強い。顔のメークは汚くし、老醜も漂う。お金への執着ぶりは、歌舞伎「髪結新三(かみゆいしんざ)」に出てくる強欲大家のようだ。

裁判で敗れ苦渋に満ちた悲しい表情で去る場面や、最後に原作にないエピローグ場面での思い入れたっぷりの演技には、「澤瀉屋(おもだかや)」と大向こうをかけたくなる。ただ、ユダヤ民族が背負った苦難というよりも、シャイロック個人の苦悩に見えた。22日まで、彩の国さいたま芸術劇場。

(文化部 河野孝)

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