2013/9/10

日本観光振興協会総合研究所(東京都港区)の研究員、全相鎮さん(35)は「ここ数年、若い人を中心に旅先で温泉に入る人が少しずつ減っています」と解説した。同協会のアンケート調査では、「行きたい旅行の種類」を聞くと7割程度が「温泉旅行」を選ぶのに、実際に行った旅での行動を聞くと「温泉浴」を選んだ人が減って5割を割り込んでいる。旅先では「グルメに関心が移る傾向があります」と全さんは話す。

「温泉施設の減少は、規制強化や不景気、不祥事などが重なったのが原因です。今後、東日本大震災の影響も出るかもしれません」。章司が事務所で報告すると、何でもコンサルタントの垣根払太が口を挟んできた。「04年に問題になった水道水による“水増し”の多くは、湯量が減ったり、井戸が枯れたりしたことがきっかけだったよ。お湯の枯渇も影響しているんじゃないのかな」

地域で資源守る仕組み課題

章司が調べると、ここ数年だけでも北海道から沖縄県まで、温泉施設が湯量の減少を理由に閉鎖されていたケースも見つかった。

背景を聞こうと日本温泉総合研究所(東京都渋谷区)を訪ねると、統括の森本卓也さん(48)が「観光客を集められるため、90年代から市町村などが盛んに温泉を掘りました」と説明した。湯量が少ないのにお湯をくみ上げ過ぎるなどの無理な開発で、井戸が枯れてしまったケースは珍しくないという。

古い歴史を持つ温泉地でも、温泉施設が増え過ぎて1軒当たりの湯量が減ったり、成分が真水から海水に変わってしまったりしたケースがあったという。それでも経営を続けるには、お湯を施設内で循環させたり、水道水などを混ぜたりするしかない。

「開発や利用を適切に制限した方が結果として長く利用できるのですが、今の資源保護対策は中途半端です」と森本さんは強調した。実際には掘削を申請して不許可になることはほとんどなく、温泉地に外部資本が入って開発を始めても、資源保護を理由に止める手立てがないという。

章司は地域住民による管理で温泉を守っている地域があると聞き、野沢温泉観光協会(長野県)の会長、森行成さんを訪ねた。「野沢では“惣(そう)”という自治組織が温泉や共有林、文化などを守っています」と森さん。13ある共同浴場などを惣が管理。村も条例をつくり外部資本も含め、事実上新しい井戸を掘れないよう規制している。「“守ることが開発”という民意があるのです」