恋歌 朝井まかて著激動の時代生きた女歌人

2013/8/29付
(講談社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

私はこの作品の後半――天狗(てんぐ)党の志士に嫁いだ中島歌子が逆賊の妻として投獄され、同様の妻や子らとともに過酷極まりない運命の中で血の涙を流す場面――を幾度も読み返した。

 そして読み返しながら、1人の作家の才能というものが大きく開花し、読者の心を鷲掴(わしづか)みにするさまを体験した。

 中島歌子といえば、歌人として“萩(はぎ)の舎(や)”塾をひらき、樋口一葉、三宅花圃(かほ)らを輩出したことで知られている。

 しかしながら自身の作品に関しては、“旧派の詠風で新鮮味に乏しい”などと評価されるが、それが一体何だというのだ。

 君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ――「尊王攘夷(じょうい)」の4文字があたかも呪文のように牢(ろう)内にまで入りこみ、「忠と不忠が糸車のように入れ替わったあの時代」を過ごして来た歌子の歌人としての源泉は奈辺(なへん)にあるのか。この作者なりの結論を出しつつ、ラストに仕掛けられた趣向は、これまでのどの朝井まかて作品も及ばない。本書は、紛れもなく現時点における作者の最高傑作であり、本年度におけるベスト作品の1つであることを私は確信している。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2013年8月28日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

恋歌

著者:朝井 まかて
出版:講談社
価格:1,680円(税込み)