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エコノ探偵団

賃料だけじゃない 本社移転、過去10年で最多のワケ

2013/8/27 日本経済新聞 プラスワン

■情報や人の交流仕掛ける

 江戸時代から薬問屋の多い道修町にはブランド力があり、本社を置くと信用力の補完にもなっていたという。信用力は情報の入手にも役立つ。町の祭りなどを通じて同業者と顔なじみになり、情報も自然と耳に入ってきたという。「近ごろは同業者同士の情報交換も昔ほど緊密ではなくなったようです」と深澤さん。

 「キーワードは情報交換のようだぞ」。章司が都市とオフィス移転の関係を研究する帝京大学准教授の佐藤英人さん(40)に話を聞くと「東京でも電子部品産業が集まる秋葉原など同業集積は各地にたくさん残っていますが」と断った上で、「現在は同業者の情報よりも、異業種と連携してアイデアを生み出し、イノベーションを起こす時代になっています」と指摘した。ネットや電子メールが発達しても、経営に関わる重要情報は顔を合わせた会合に出ないと得られない。オフィス選びのポイントは多様な企業が集まる立地環境だという。

 企業立地に詳しい東京大学教授の松原宏さん(56)が補足した。「オフィス街におしゃれなファッションの店舗が増えているのも、新たなビジネスのアイデアを得て、生産性を上げようとする工夫の表れかもしれません」。都心部では再開発と合わせてオフィスとホテル、商業施設、文化施設などを入居させた高層ビルが相次いで登場している。一方、オフィスを探す企業側も顧客や社会の動きを身近に感じられるビルの立地や、社員が働きやすい環境も重視するようになってきた。

 「アイデアや知恵を生み出す創造性が日本企業にとって大切になっていることを、本社の移転が反映しているのでしょう」と松原さんは締めくくった。「コスト削減や効率性に加え、オフィス選びは新たな生き残り策でもあるのですね」と章司は納得した。

 「六本木の新ビルに移転しませんか」。報告を終えた章司が提案すると、所長夫人の円子が「買い物しやすい新宿がいいわ」。「毎週引っ越すか。交流が盛んになり仕事が増えるぞ」。所長の目が光った。

(山川公生)

[日経プラスワン2013年8月24日付]

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