こころ・宮本武蔵…名作を無料で読むための基礎知識
パソコン・スマホ・専用端末で
作家、吉川英治の人気小説「宮本武蔵」が今年から無料で読めるようになった。死後50年が経過した作家の作品として著作権が切れたためだ。ほかに「私本太平記」などの吉川作品もすでに無料で公開されている。
電子データとして公開された名作を読むためには(1)パソコンを使う(2)スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に専用アプリをインストールする(3)電子書籍リーダーの専用端末を使う――などの方法がある。
吉川英治のほかにも今年から民俗学者である柳田国男の作品の著作権が切れ、代表作「遠野物語」も電子データが公開されている。ただし紙の書籍はあっても、電子データに変換されていない作品もある。
それ以前の文豪の作品となると、すでに電子データとして数多く配布されている。夏目漱石や森鴎外、芥川龍之介、太宰治などの名作は、ほとんど電子データで入手して無料で読むことができる。
翻訳の著作権が切れた海外作品も多い。ロシアの文豪ドストエフスキーやチェーホフの作品、英国の作家コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズなどの翻訳も無料で読める。ピーターラビットの絵本もある。
こうした著作権の切れた名作の電子データ化を精力的に進めているのが、ボランティアで運営している「青空文庫」だ。短い作品を含め、すでに約1万2000点を登録し、同サイトからパソコンに自由にダウンロードできる。
電子データ化された名作を読む際に、便利なのが電子書籍リーダーの専用端末だ。軽量で持ち運びも簡単。電池のもちもいい。文字のサイズも自由に変更できるので高齢者にも向いている。
たとえば電子書籍リーダーで利用者の多いアマゾンの「キンドル」を使う場合は、夏目漱石の「こころ」を読みたいなら、キンドルストアーで探してゼロ円で購入できる。無料という意味だ。楽天の「コボ」を電子書籍リーダーとして使う場合は、青空文庫の無料作品として「ライブラリに追加」すればよい。
著作権切れ作品を入手するときに戸惑うこともあるだろう。同じ夏目漱石の「こころ」でも、青空文庫以外に有料の電子書籍も販売されているからだ。無料と有料でどんな違いがあるのかというと、本文は同じ。有料版は解説が付属していたり、表記や注釈などに違いがあったりする。
電子データの形式を変換する手数料として、出版社が有料としていることもある。青空文庫の電子データのままでは、キンドルやコボでは読めないためだ。端末で利用できる形式に合わせた電子書籍化の作業が必要になる。
今後、著作権の切れる作家は増えていく。2016年に谷崎潤一郎や江戸川乱歩、21年に三島由紀夫、22年に志賀直哉、23年には川端康成などだ。
心待ちにしている読者も多いだろうが、予想通りには進まない可能性もある。作家の死後50年という小説の著作権保護期間を、もう20年延長する可能性が浮上している。
一番影響がありそうなのは、環太平洋経済連携協定(TPP)だ。米国などの著作権保護期間(70年)に合わせ、日本も著作権法を改正する可能性が高まっている。また日本文芸家協会など多くの著作権関連団体も、同じく70年の保護期間を望んでいる。
仮に著作権保護期間が70年となった場合、その後、無料で読める名作の追加はしばらく途絶えることになる。
(テクニカルライター 佐藤 信正)
[日経プラスワン2013年8月24日付]
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