病院食も美味しくなきゃ 「食べる喜び」へ工夫早期回復を後押し、レシピ公開も

健康的だけど味気なく、美味(おい)しくない――。こんなイメージの強かった病院の食事が大きく変わり始めた。だしを使って食材のうまさを引き出したり、食が進まない患者でも食べられるよう工夫したりする病院が増え、「美味しい」と評判になってレシピを公開する例も。背景には、しっかり食べて体力をつけてもらうことが早期回復、早期退院につながるとの考え方の広がりがある。

「心筋梗塞や脳卒中など循環器の疾患を扱う病院として以前から高血圧の原因となる塩分を抑えてきた。だが薄味で美味しくないと残す人も多かった」。国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)臨床栄養部栄養管理室の村井一人室長(53)は振り返る。2004年に高血圧の治療ガイドラインで塩分の摂取量が1日7グラム以下から6グラム未満と一層厳しくなり、「さらに塩分を減らしても美味しく食べてもらうにはどうしたらいいか、協議を重ねた」。

■減塩の発想転換

オリジナルの「八方だし」を作る国立循環器病研究センター調理師長の竹田さん(大阪府吹田市)

ある日、調理師長の竹田博幸さん(59)が発した言葉が流れを変えた。「薄味だから美味しくないというのでなく、薄味だから美味しいものも作れるのではないか」。塩分を減らす発想から、必要な量だけ使う発想への転換だ。

京都の割烹(かっぽう)で料理人として腕を磨いた竹田さんは02年同センターに入り、05年調理師長に。少量の塩でも美味しくするコツは、かつおだし、薄口しょうゆ、みりんなどを加えたオリジナルの「八方だし」で食材のうまみを引き出すこと。様々なテクニックと工夫で「塩分が少ないからこそ美味しい」(竹田さん)料理を作っていった。こうして生まれた同センターの「かるしおレシピ」は280種類。73種類のレシピを載せた本を昨年12月に出版したところ25万部の大ヒットとなり、「病院食のレシピ本」ブームの火付け役となった。

一方、がん治療では、放射線や抗がん剤の副作用が食生活に悪影響を及ぼすことが多いため、治療を続けながら美味しく食べられるレシピの開発が進む。

国立病院機構四国がんセンター(松山市)は06年から、患者の症状別メニューを提供。食欲不振や吐き気に悩む患者には吐き気の原因となる臭いを抑えるよう食材の組み合わせを工夫した「坊っちゃん食」、口内炎で痛みを訴える患者には、塩やしょうゆなど刺激となる調味料を控えた「漱石食」といった具合だ。「自宅に戻ってから食事に悩む人が多い」(河内啓子栄養管理室長)ため、レシピはホームページやパンフレットで紹介している。

千葉県がんセンター(千葉市)は外来で治療を続ける患者向けの食事を大手食品メーカーのキッコーマンと共同研究している。「これからは外来患者、在宅治療の支援がカギになる」(鍋谷圭宏・消化器外科主任医長)との考えからだ。口内の乾燥に悩むケースが多い胃がん患者向けに、とろみを付けるなど汁気の多いメニューを開発。抗がん剤の副作用とみられる味覚の変化に対応したメニューも研究中だという。

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