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「アンドレアス・グルスキー」展 濃密な画面、際限なく

2013/7/12 日本経済新聞 朝刊

上の写真を縦2メートル、横3.2メートルに引きのばし、目の前に掲げられたと想像してほしい。やや上方から見下ろしたディスカウント店の内部。ごくありふれた風景のようで、どこか不思議な現実感が漂っていないだろうか。

まず、画面のすみずみにまでピントを合わせたように、すべてのものが精密に、そして均質に写しだされている。かなり後方の棚に並ぶ商品の色や形もはっきり見える。濃密な画面が際限なく広がるさまは、圧巻としか言いようがない。仮に一部分を切り取って拡大してみても、同じように緻密な画面が広がっているのではないかと思わせるほどだ。

1955年生まれのアンドレアス・グルスキーは「ベッヒャー派」に連なるドイツの作家。給水塔などの産業構造物を主観をまじえず標本のように撮影する。そんな師匠ベッヒャーの手法を受け継いではいるが、グルスキーにとって現場でのショットはあくまで素材のひとつ。デジタル技術を駆使して再構成するところが大きく違う。

米国の抽象表現主義など絵画と比較して語られるのも、この写真家の特徴だ。都市の川面を撮った「バンコク」シリーズも、モネの「睡蓮(すいれん)」を想起させるという指摘がある。会場でその1枚を目にして、得心した。

晩年のモネは光や風によって揺らぎ、うごめく水に引き寄せられていくが、グルスキーが見ているのも、ごみの影がうっすらと浮かぶ水面。そして黒光りする水の下に広がる現代社会の暗い夢なのである。9月16日まで東京・六本木の国立新美術館。大阪に巡回。

(文化部 窪田直子)

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