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「川合玉堂」展 多彩な試みを再発見

2013/7/4 日本経済新聞 朝刊

川合玉堂(1873~1957年)は、横山大観、竹内栖鳳とともに、昭和前期の日本画壇に重きをなした巨匠である。湿潤な日本の自然を柔らかな墨線と穏やかな色彩で描いた風景画は、いかにも目になじみやすい。しかしその分かりやすい写実性ゆえに、画家の達成をかえってつかみ損なうこともある。

生誕140年を記念し東京・広尾の山種美術館で開かれている「川合玉堂」展を見て、「懐かしい日本の原風景を描いた画家」という理解だけでは届かない玉堂の多面性に触れることができた。

「柳蔭閑話(りゅういんかんわ)図」は、生涯でただ一度、日本列島から海を越えた朝鮮旅行の時の作品だ。草に覆われた石垣の前で白い民族衣装を着た老人が、会話を交わしている。風に揺れる柳の葉の精彩あふれる描写は、いかにもこの画家と感じるものの、建物の丹塗りの柱や傾斜が強い甍(いらか)、一部がはげ落ちた白壁の描写は、物の実在感を確かにつかんでいて、柔らかなタッチで情趣を伝える他の日本的風景画とは印象が異なる。

大陸の風俗を描いた玉堂の絵は極めて珍しく、本作も戦後は長く所在不明で今回ようやく日の目を見たというから、まさに再発見といっていい。

30代半ばに描いた「瀑布」は、滝と水煙という玉堂好みの題材だが、後年の絵に多く出てくる自然の中の人物描写がない。岩肌と水流をほぼ正面から描く豪壮な画面は、円山応挙の流れをくむ京都時代の師風を想起させる。他にも、琳派の影響が顕著な紅白梅の金屏風もあり、明治・大正期の多彩な試みの一端をうかがい知ることができる。

むろん、日本の湿度と空気感を柔らかな筆に描いた昭和期の明るい風景画も多数出品されているが、「画風一日にして成らず」を実感する展覧でもあった。8月4日まで、一部展示替えがある。

(編集委員 宮川匡司)

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