さらに大沢さんは「女性が選ぶ学部が偏る背景には、小中学校や家庭に男女が役割分担をする考え方がある影響もあるので、大学で自分の人生を切り開く教育をすることも重要です」と付け加えた。
「家庭教育の意識にも原因があるなら、すぐには女性管理職は増えないのでは?」と明日香は考え込んだ。
すると「私は01年度入社ですが、05年以降、会社の雰囲気は劇的に変わりましたよ」。大和証券のワーク・ライフ・バランス推進課の上席課長代理、村瀬理紗さん(35)が声をかけてきた。
同社では社長に鈴木茂晴さん(現会長)が就任後、育児休職の延長や保育施設の費用補助、短時間勤務制度などを矢継ぎ早に打ち出した。
会社を挙げて午後7時前退社など仕事と生活の両立支援に力を入れた結果、出産による退職は激減。グループの女性管理職比率は06年度の2.9%から12年度に4.8%に上昇した。生え抜き女性役員も09年に4人、11年には1人誕生した。
「今では周りに女性管理職が普通にいて、出産や子育てを経験した支店長もいます。女性社員のロールモデル(お手本)が増えて働きやすくなりました」と村瀬さん。明日香は「トップが本気になれば大きな組織も変わるのね。それが若い世代にも見えれば学生時代の選択にもいい影響が出るはず」と納得した。
事務所で報告を終えた明日香が「私のお手本は……」と円子に目をやると、「私じゃなくて彼女かもよ」。子どもをあやしながら鋭い目でネズミに狙いを定めるネコの三毛を指さした。
(松林薫)
[日経プラスワン2013年6月29日付]