ライフコラム

エコノ探偵団

磁気テープなぜ復活? 生産量3年連続プラスに

2013/6/11 日本経済新聞 プラスワン

藤枝市は震災後、友好都市の沖縄県宮古島市に重要情報を入れた磁気テープを月1回送り、互いに保管している。位置情報発信器が付いたジュラルミンケースに厳重なセキュリティーを施し、民間業者が輸送する。ネット回線と専用システムを使って遠隔地に保管する場合に比べ、10分の1以下の費用で済むという。

二重にケースに入れ、厳重なセキュリティーで磁気テープを運ぶ(藤枝市役所)

データ保管という新たな需要をビジネスにする住友倉庫のアーカイブ業務課長の木村権璽さん(44)にも話を聞いた。「震災後は月に数件、金融機関や企業から磁気テープを預かってほしいとの依頼があります」。埼玉県羽生市に昨年1月、磁気テープや文書などを保管する倉庫を建てたという。

記録メディアに詳しい東京大学教授の馬場章さん(55)に磁気テープが見直されている理由を聞いてみた。「磁気テープは実用化して50年以上、記録の原理は変わっておらず、枯れた技術といえます」。新しい技術として普及してきたCDなどの光ディスクは、一般的に普及してまだ約20~30年と磁気テープに比べて歴史が浅い。HDDはコンピューターウイルスにさらされる恐れも出てきた。コンピューターの黎明(れいめい)期から磁気テープを利用してきた自治体や企業にとって「複数の方法でデータ保存するのが理想ですが、コストを考えると磁気テープは有力手段の一つと評価されているのです」と馬場さん。

通りかかった情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ、東京都港区)の市場調査部長の宮繁行さん(56)が意外な話をしてくれた。「ファクスも見直されていますよ」。震災時の連絡手段として機能した事例があったほか、金融機関や企業がネット障害時の非常連絡手段として保有しているという。実際、ファクスの国内出荷額は12年度に3184億円と、前の年を11%上回った。パナソニックは停電時でも充電式電池で使える家庭用ファクスが好調という。

経営戦略論が専門の一橋大学准教授の藤原雅俊さんが「枯れた技術が信頼性や安心感を高めるのでしょう」と解説してくれた。コンピューターの日付設定が原因で誤作動を起こす恐れが指摘された“2000年問題”の際には、データを印刷して保存するために紙の需要が一時的に伸びた。最近ではデジタルカメラなどの撮影データを印刷して見られるフォトブックが人気を集めている。こうした現象は「枯れた技術でもしっかりした特徴があると、再評価されるという好例ですね」と藤原さんは締めくくった。

事務所に戻った章司が「企業や自治体が磁気テープの活用を増やしているのは信頼性やコストを再評価しているためでした」と報告すると、所長が一言。「枯れた技術も捨てたものではないだろう。先達の助言はよく聞くものだぞ」

(山川公生)

[日経プラスワン2013年6月8日付]

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL