エンタメ!

映画セレクション

リアル~完全なる首長竜の日~ 説得力持つ仮想現実

2013/6/2 日本経済新聞 夕刊

「叫」や「トウキョウソナタ」などで国際的に高い評価を受ける黒沢清監督の新作である。乾緑郎のミステリー小説を原作に、自殺未遂で昏睡(こんすい)状態に陥った恋人を目覚めさせるため、恋人の意識の中に入り込むというSFタッチのサスペンス映画である。

浩市(佐藤健)と淳美(綾瀬はるか)は、幼馴染(おさななじ)みで恋人同士。漫画家の淳美は1年前に自殺を図って昏睡状態に陥ってしまう。そんな彼女の目覚めをうながすため、浩市はセンシングという最新医療の治療法で彼女の脳内に入り込み、彼女との対話を試みる。

他人の意識に入り込むとは、その人の心を覗(のぞ)き込むこと。他人にはうかがい知れない心の奥底に潜む傷痕を見る恐れもある。浩市と淳美の対話で浮かび上ったのは、淳美が幼い頃に描いた首長竜の絵。一方、浩市は謎めいた少年の幻影を見るようになる……。

3年前に米映画「インセプション」が話題になったが、意識や夢に入り込む物語を描く映画は難しい。映画では現実も夢も映像として区別がつきにいため、両者の境界が分からなくなるとリアリティーの基準が曖昧になってしまうからだ。本作では現実と仮想現実の境界をたえず観客に見せる形で展開するため説得力を持っている。

もっとも本作には大きな仕掛けがある。そこから浩市が幻影として見る少年は誰なのか、首長竜とは一体何なのかということが次第に明らかになる。物語は現実と脳内世界の枠を超えて現在と過去という次元に広がり、主人公たちの子供時代の出来事が謎解きのように展開される。

黒沢監督の演出は、CG技術を活用しながら、一方でリアル感を保ち、他方で非現実的な雰囲気を生み出すことで、現実と仮想現実の微妙な境目を巧みに提示する。ラストの首長竜の登場も納得できて面白い。2時間7分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2013年5月31日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

エンタメ! 新着記事

ALL CHANNEL