立花隆の書棚 立花隆著膨大な量の本と精密な写真

2013/5/29

壮大な本である。厚さ5.4センチ、総650ページのうち図版が192ページで、どこまでめくっても書棚の写真ばかり。一見、そのまま撮っただけのようだが、とんでもない。書棚の一段一段を精密に撮影し、すべての棚の写真をコンピューターで合成するという気の遠くなるような作業が施されている。おかげで画像の歪(ゆが)みもなく、ほとんどの本の背文字などもしっかり読み取れる。写真家・薈田(わいだ)純一の精密書棚撮影術の成果をじっくり眺めているだけでも楽しい一冊である。

(中央公論新社・3000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 その上、20万冊にも及ぶと思われる膨大な量の本の所有者が「知の巨人」立花隆なのだから、それだけでも興味をそそられるではないか。立花は「書棚は持ち主の知的歴史の断面なのだ」と語っているが、この本を見ていると立花隆という人物の脳の中を自在に探索しているような気分になれる。収められている本は、「死」「脳」「西洋哲学」「サル学」「原発」「キリスト教」「イスラム」「日本共産党」「ラファエル前派」「ワイン」「明治維新」「宇宙」などから「偽書」「春本」にいたるまで、森羅万象にいたっている。

 この本のもうひとつの魅力は、立花自身が、これらの本にまつわる話を聞かせてくれることである。それは単なるブックガイドではなく、変化に富んでいて役に立つ。例えば、キリスト教文明を考えるときに、「土着宗教としてのキリスト教」という原点を忘れてはいけないとか、コンピューターについて、「人間と同じような人工知能を作ることは当分の間、絶対にできない」とか、問題の要所をズバリ教えてくれる。さらに、高度な話のあいまに、春本の最高傑作はなにかなど、思いがけないエピソードも披露してくれる。

 ところで、ここに並んでいる大量の本からは、図書館や専門書店の棚を見上げたときのような圧迫感が感じられない。それは、表紙が折れていたり、付箋があちこちからはみ出していたりとか、それらの本が読まれ、使われていることがわかるからではないだろうか。本も生き物のように、人間と交流し、いつくしまれると、親しみやすくなるのかもしれない。

(書評家 松田哲夫)

[日本経済新聞朝刊2013年5月26日付]

立花隆の書棚

著者:立花 隆
出版:中央公論新社
価格:3,150円(税込み)

今こそ始める学び特集
今こそ始める学び特集