大恐慌論 ベン・S・バーナンキ著危機拡大の「非貨幣的」要因を分析

2013/5/20

本書は、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が、学者時代に執筆した「大恐慌」に関する一連の研究成果をまとめた論文集である。本書全体に通じるテーマは、大恐慌期に何が世界的な規模での総需要の崩壊をもたらし、なぜそれが長く持続したのかという2つのパズルである。著者は、ミルトン・フリードマン(経済学者)らが主張する貨幣供給の収縮や、バリー・アイケングリーン(同)が主張する国際通貨体制の欠陥が、大恐慌の一因だったことには一定の理解を示す。それらに加えて、銀行パニックや企業破綻のように信用チャンネル(経路)の働きを妨げる「非貨幣的な」要因が、危機を拡大させた大きな要因だったことを明らかにしている。

(栗原潤ほか訳、日本経済新聞出版社・4800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 分析の対象は1920~30年代ではあるが、非貨幣的な金融要因の影響を制御し、信用のアベイラビリティ(壊れにくさ)を確保することが危機回避には重要だという分析結果は、今日の経済学では一つの標準的な考え方となっている。金融危機を克服し、信用フローを正常な状態にいち早く戻すべきだとする主張を、FRB議長として、リーマン・ショック後の米国の金融政策に大きく反映させたことは言うまでもない。

 大恐慌に関するマクロ経済分析を先行研究と比較しながら論じた第1部を除けば、本書は国際的な専門誌に掲載された論文を集めた研究書である。一般の読者がその内容を隅々まで理解するのは難しいかもしれない。しかし、本書の論旨は明快かつ首尾一貫しており、研究者でなくても著者の伝えたかったメッセージは十分に理解できるはずである。

 ただ、本書が日本経済に対していかなるインプリケーション(含意)を持つかの評価は難しい。デフレが続く日本経済では、金融システムは安定し、賃金の低迷がデフレの大きな要因となっている。これは、金融危機が発生し、賃金が高止まりした大恐慌時の米国などとは対照的だ。本書をベースに、安倍晋三内閣の経済政策「アベノミクス」を考え直すには、大恐慌時の世界経済と現在の日本経済の類似点と相違点を比較、検討する必要があるだろう。

(東京大学教授 福田慎一)

[日本経済新聞朝刊2013年5月19日付]

大恐慌論

著者:ベン・S・バーナンキ
出版:日本経済新聞出版社
価格:5,040円(税込み)