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泣いてストレス解消 映画や音楽に大脳が反応 「情動の涙」で心を健康に

2013/5/14 日本経済新聞 朝刊

 新年度が始まって約1カ月。新しい職場や学校の環境に慣れてくる頃だが、思うようにならず不満が募って泣きたい衝動にかられる人もいるだろう。我慢せずに思い切り涙を流してストレス解消を目指す方法が、カウンセリングなどに取り入れられている。感情の表現は、心の健康を保つ鍵の1つといえそうだ。

 心温まる映画の一場面に感動したり、魂を揺さぶられる音楽に出合ったりして思わず涙を流す――。専門家の間で「情動の涙」と呼ばれる。東邦大学名誉教授で脳生理学が専門の有田秀穂医師によると、この涙こそがストレス解消につながるという。

■気分がすっきり

 同じ涙といっても、目の乾燥を防ぐためのものや目にごみが入ったりタマネギを切り刺激を受けたりして反射的に出る涙などとは異なる。情動の涙を流す時、心身にどんな変化が現れるのか。有田名誉教授は名作といわれる「フランダースの犬」や「火垂るの墓」のビデオを成人に見せ、脳の血流量を測定した。

 実験ではビデオを見た約20人のうち、約9割が途中で泣いた。泣き始める1~2分前に大脳にある「前頭前野」という部分の血流量が緩やかに増え、10~20秒前からは急増。同時に心拍数や血圧も上がり、興奮状態になっていた。泣いた後は血流量が下がり、元の状態に戻った。

 ビデオを見た人が登場人物に共感したり心を動かされたりした結果、前頭前野の活動が高まり「涙を出せ」という命令が出たと有田名誉教授は解釈している。大脳が発達した人間だからこそ出せる涙なのだという。

 心理テストを実施すると泣いた人では緊張や不安、混乱、怒りなどの度合いが小さくなり、「すっきりした」との感想が目立った。ロート製薬が2012年12月に社員を対象に実施した涙に関するアンケート調査でも、泣いた後に「気が晴れた」「より楽しくなった」など、気持ちが前向きに変化したとの回答が65%に達した。

 情動の涙を流す際は、興奮や緊張状態に対応する交感神経に代わってリラックス状態につながる副交感神経が優位になる。ストレスが低下し、副交感神経の働きによって夜に眠りにつく時のような状態に近づく。科学的に未解明な点もあり、なお検証が必要だが、泣くことで交感神経から副交感神経に切り替わる状況を自ら作り出し、ストレスをなくしているようだ。

 泣きたい衝動にかられても、涙が出ないとストレスが高いまま、かえってもんもんとしてしまう例が多い。仕事などに追われ、疲れすぎて泣けなくなったら、うつ状態になる危険もある。そうした状況になる前に「週末だけでも思い切って号泣してみるとよい」と有田名誉教授は勧める。登場人物や演奏家に共感できるような映画や音楽が効果的という。

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