歌舞伎座こけら落とし5月公演吉右衛門、的確なセリフ回し

2カ月目の歌舞伎座こけら落とし公演。重量級演目が満載だった先月に比べると幾分肩の荷が軽くなった感じがする。祝典舞踊「鶴亀」で開幕。「寺子屋」は重量級だが引き締まった出来でいい。幸四郎の松王丸が従来とかく涙過剰だった弊を廃して、すっきり直截(ちょくせつ)に芝居を運ぶ。涙の量は減っても感動はこの方が深い。三津五郎の源蔵が的確無比にこれに応じ、魁春の千代、福助の戸浪も心を込めて演じながら芝居の運びは遅くならない。上演頻度の高い「寺子屋」だが、まずは上の部。彦三郎の玄蕃が立派。幸四郎の和尚、菊五郎のお嬢、仁左衛門のお坊の「三人吉三」は三役そろい踏みのよう。

第2部は坂田藤十郎の政岡が上方の型で見せる「先代萩」。独特の吸引力がすごい。秀太郎の栄御前が年の功。「床下」の吉右衛門の男之助の立派なこと。幸四郎の仁木と併せ大歌舞伎の貫禄。仁左衛門・玉三郎の「廓文章」は四十年来の恋人役ならではの息の合った強みで独自の美と情の世界を醸成。ここでも秀太郎の吉田屋女房の、これぞ上方の味という存在感が見もの。

どれも好舞台だが、お薦めはと問われるなら第3部と答えよう。吉右衛門の「石切梶原」の充実感。セリフの一々が意味ある言葉として立ち上り、芝居の全貌を的確に彫り上げる。決して名作とは言えないこの作が歌舞伎味あふれるコクのある舞台となって堪能させる。菊五郎の大庭は亡き団十郎の代役。異色の初役だが、菊五郎ならではの味で見せる。歌六の六郎太夫、芝雀の梢も堅実な芸。又五郎の俣野が傑作だ。もう一つの見ものが玉三郎と菊之助の「京鹿子娘二人道成寺」。こんなにワクワクしてもいいのかと思うほどの面白さ。29日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)