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エコノ探偵団

花粉症、景気にどう影響 能率3割低下の調査も

2013/4/16 日本経済新聞 プラスワン

例えば関西では、09年5月、新型インフルエンザの患者が見つかったことをきっかけにホテルや旅館のキャンセルが相次いだ。「観光や外食などへの負の波及効果を試算すると約450億円に達しました」。PM2.5も風評被害につながると、影響は小さくない。

■仕事の能率下がり損失

明日香が「消費へのマイナス効果は大きそうです」と報告すると、所長が首をかしげた。「依頼人は仕事の能率が下がったと訴えていたぞ」。「労働への影響も調べます!」と明日香。

鼻炎薬などを製造・販売しているグラクソ・スミスクライン(東京都渋谷区)を訪ねると、広報部の中村和明さんが08年末に実施した調査を差し出した。「働いている花粉症の人に生産性の損失を金額に換算してもらうと、1日当たり平均5949円でした」。根拠を尋ねると「作業が2時間遅れる」「仕事の効率は影響がない時期の半分」といった回答だったという。

別の調査(複数回答)でも「花粉症を理由に休んだことがある」が4.9%、「風邪など他の病気を理由にして休んだことがある」が9.7%にのぼった。明日香は「国民の4人に1人が花粉症だというから、経済損失は小さくないはずね」とつぶやいた。

明日香は、医療経済学が専門で花粉症が労働に与える影響を研究している大阪大学名誉教授の荻野敏さん(65)に話を聞いた。「花粉が飛ぶ時期にアンケート調査したところ、就労者の能率低下率は平均30%を超えていました」と荻野さん。

さらにゲーム機のニンテンドーDSで計算問題を解く実験をしたところ、花粉症の人は症状が出ないシーズンと比べて解答が約10%遅くなった。「仮に10%の低下でも社会全体では4千億~6千億円規模の損失が出る可能性があります。コストをかけても能率低下を抑える効果は大きいです」と荻野さんは強調した。

「解決策はないかしら」。明日香は林野庁に向かった。「無花粉や少花粉の品種の植林を増やしています」。森林利用課の課長補佐、大沼清仁さん(51)が説明した。東京都心に花粉を飛ばしている関東周辺7都県にあるスギ林のうち、約5万5千ヘクタールを対象に重点的に入れ替えている。

明日香は東京大学教授の柳川範之さんにも意見を求めた。「PM2.5はもちろん、スギ花粉も広い意味での公害問題です」。中国の工場の経営者やスギ林の持ち主は、排ガスや花粉を出しても「空気の使用料」のようなコストを払う必要がなく、対策にお金をかける動機が弱い。コストを払っているのは迷惑を被る側だ。「こうした状態を経済学では“負の外部性”が生じていると言います」

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