夜を吸って夜より昏い 佐々木中著現実に起こる事象を描写

2013/4/12付
(河出書房新社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

哲学者でもある佐々木中の最新小説である。彼の小説を読む者は、まずそのレトリックに目を眩(くら)まされる。音を意識して、韻を踏んだ文章が、現代文学の中ではとても珍しい。古典文学を読み込んでいるとしか思えない、優美だが強靭(きょうじん)な文体は、慣れるとクセになる。

 ただ、文体にばかり注目が集まるのは、佐々木の本来の意図とは違うのではないか。彼が駆使する独特の文体(あえて「雅文体」とでも呼びたいくらいだ)が捉えているものに、もっと読者は配慮すべきではないか。

 そう考えたのは、じつは本作において、おそらく佐々木は初めて、現実に起こっている事象に相当数のページを割いているからである。

 それは、ほぼ毎週金曜日夕方に現在も継続されている官邸前の抗議活動である。原発再稼働をめぐって反対の意思表示の場。本作の主人公は、そこへ向かう。見聞したものを描写する。

 佐々木は独自の文体と現実との間を詰めようとしている。自分の文体で現実を掴(つか)み取るには描写するしかない。これこそが文学の使命である。佐々木はたぶんそう考えている。賛意を表しておきたいと思う。

★★★★

(批評家 陣野俊史)

[日本経済新聞夕刊2013年4月10日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

夜を吸って夜より昏い

著者:佐々木 中
出版:河出書房新社
価格:1,890円(税込み)