低血糖が問題になるのは重症だと意識を失い、生命が危険にさらされるからだ。約10年前から糖尿病の治療を続ける東京都内の男性(69)も危ない経験をした一人。薬を投与した後に食事を抜いてしまったため、効果が強く出すぎて外出先で倒れてしまった。「治療期間が長くなると低血糖を起こす頻度も高まる」と東京女子医科大学糖尿病センター長を務める内潟安子教授は指摘する。糖尿病患者の約半数が低血糖を経験しているとの国際研究もあるという。

■管理目標を改定へ

血糖値は通常、1デシリットルあたり90~130ミリグラム程度に保たれている。健康な人は空腹になってもそれ以下にはならないが、患者は下回ることもある。人によって異なるが、一般に60ミリグラム以下になると動悸(どうき)やふるえが出始める。50ミリグラム以下になると頭痛や眠気、目のかすみ、目まい、言葉が出ないといった症状が表れる。30ミリグラム以下になると昏睡(こんすい)したりけいれんが起きたりする。

ただ、低血糖がどの程度起きているかは、診察時の1回の検査ではつかみにくい。そこで西村准教授は、約2カ月間の血糖値の平均値を表す「ヘモグロビンA1c」が7.9%と7.8%とほぼ同じ患者2人を対象に、3日連続で血糖値を測れる機器を使って調べた。

その結果、1人は血糖値が40ミリグラム以下から400ミリグラム以上と大きな変動を繰り返していた。「血糖値が乱高下し、低血糖になっている時間帯もある」と西村准教授は分析する。もう1人は100~250ミリグラムだった。

低血糖と心臓病や認知症が関係することも徐々に分かってきた。海外の研究で、ヘモグロビンA1cの値を厳しく下げようと積極治療をしたところ、緩やかにコントロールしたグループと比べて重症の低血糖が2割増加。死亡率も高まり、心臓の血管への悪影響も指摘された。別の研究では、65歳以上の高齢者では入院するほどの低血糖になると、認知症のリスクが3割近く上昇したという。

東京女子医大の内潟教授は「高齢者は神経の働きなどが低下し、低血糖症状が出ても気づきにくくなる」と説明する。女性では月経前は黄体ホルモンの影響で血糖値は上がりやすいが、月経が終わると急に下がる。この変動に合わせて薬を加減するのが難しい。

年齢や性別などを考慮する必要性を訴える専門家も増えており、日本糖尿病学会はヘモグロビンA1cの管理目標を改めることを検討中だ。高齢者や重症の低血糖を起こした患者らは値を緩めることになりそうだ。同学会理事長の門脇孝・東京大学病院長は「発症してからの期間や合併症の有無、臓器障害の程度、過去に低血糖を起こしていないかなども考慮した新基準をなるべく早く導入したい」と話している。

(吉野真由美)

[日本経済新聞夕刊2013年3月22日付]