スマホかざして情報入手 水族館・小売店・家電…
国際規格採用で利用拡大
スマートフォン(スマホ)をかざして水族館で情報を表示したり、家電のマニュアルを入手したり。スマホに埋め込んだICチップを利用した新しいサービスが広まりつつある。今のところアンドロイド端末の新しい機種に利用は限られるが、従来型の携帯電話でおなじみのレジでの支払いや自動改札に加え、様々な分野での応用が期待されている。
水槽の脇のマークにかざすと水槽の中の魚がスマホに転送──。東京・池袋のサンシャイン水族館は4月7日までの期間限定で、来館者向けにスマホ向けのアプリ「ikesu」を提供している。館内9カ所に設けたICタグにスマホを近づけると、魚が水槽を模したアプリの中で泳ぎ、魚を触ると魚の説明が表示され、見終わった後も見た魚を確認できる。
水槽の雰囲気壊さず
来館者にとって便利になっただけではない。「水族館の幻想的な雰囲気を壊さずに詳しい解説ができるようになったことも大きい」と、企画を担当したサンシャインエンタプライズ(東京・豊島)事業推進部の梅原貴志主任は語る。
同水族館では前から解説を充実させたいと考えていた。しかし、水槽のそばに大きな説明板などを置くと幻想的な雰囲気が台無しになってしまう。今回の仕組みを使えば、こうした問題を解決できる。
クーポンやポイントサービスに活用する試みも始まった。東京・銀座周辺ではクーポンサービス「ココシル銀座 タッチdeクーポン」を31日までの期間限定で実施中だ。ユーシーテクノロジ(東京・品川)が運営。アプリに登録された店舗の情報を表示して店頭のタグにかざすと、クーポンが利用できる。
大型商業施設、阪急西宮ガーデンズ(兵庫県西宮市)では、店頭の専用端末にかざすだけで各店舗のポイントがたまる。さらに駐車場入り口にある地図にスマホをかざすと、駐車した位置を通知してくれる。
家電に取り入れる動きも出てきた。パナソニックでは対応した家電にかざすと、説明書やレシピなどをダウンロードできるサービスを始めた。
免許証や診察券を入れる構想も
従来型の携帯電話にもかざす機能はあったが、決済や交通での利用が中心だった。応用が広がっているのは、かざす機能を実現する近距離無線技術に、従来とは違う規格が採用されたからだ。海外のスマホにも使われている「NFC」と呼ぶ国際規格だ。従来の規格では読み取り機などが高価で大手企業でないと導入が難しかった。NFCは導入費が従来の10分の1、運用費も半額程度とされる。
利用できるのは、アンドロイド端末の新しい機種に限られるが、採用機種は急速に増えている。アップルのiPhone(アイフォーン)は残念ながらまだ対応していない。
スマホ関連各社も今後の活用に期待を寄せる。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が設立した「モバイル非接触ICサービス普及協議会」ではNFC搭載スマホに免許証や診察券を入れる構想を練っている。凸版印刷とサイバーエージェントは専用アプリを導入しなくても、かざすだけでサイトを表示する仕組みを開発した。
もっとも、サービスはまだ始まったばかり。本格活用へ向けての期間限定の実証実験にとどまっているものが大半だ。
かざすと情報を得られる、あるいは送信できるNFCは便利だが、携帯電話に個人情報がさらに集中するというリスクも伴う。それが利用者にとってよいことなのかどうかを考えるためにも、スタート段階の今、体感してみると面白いかもしれない。
(電子整理部 武藤邦雄)
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