迅速な診察や治療を可能にする設備の導入も進んでいる。「手術なし」が最多の1255例だった順心病院(兵庫県加古川市)では昨年、造影検査や血管内治療、外科手術を1カ所でできる「ハイブリッド手術室」を備えた新病棟が完成。救急外来わきに検査室があり、救急患者専用のエレベーターでつながる2階に手術室、4~6階に集中治療室(ICU)を設けるなど機能を集約している。
患者が社会復帰するには治療直後からの計画的なリハビリが欠かせない。大田記念病院(広島県福山市)リハビリテーション科の矢守茂医師によると、症状にもよるが、入院初日は腕の曲げ伸ばしなどの軽い運動から開始。その後、数日かけて歩行や物をつかむ練習、言語トレーニングに移行するのが一般的だ。
高度な治療ができる拠点病院の空き病床を確保するため、厚生労働省は慢性期のリハビリや投薬治療を地域医療に委ねる「機能分化」を進めている。大田記念病院と診療所など約50施設でつくる「備後脳卒中ネットワーク」は患者を急性期・回復期・維持期に分け、治療計画や病状を共有。リハビリのメニューづくりに生かしている。
リハビリ指導者の育成も地域全体で取り組む。同病院が3カ月に1度開く勉強会は、地域の診療所などから約70人が参加する。矢守医師は「体力や症状に応じたリハビリを提供するには、成功事例を分析し、そのデータを蓄積、共有することが欠かせない」と強調している。
◇ ◇
<血栓溶解剤「tPA」 投与の条件 緩和>
厚生労働省は昨年8月、脳梗塞の発症後3時間以内に限ってきた血栓溶解剤「tPA」の投与条件を4時間半まで延長。これにより、発見や搬送に時間を要した場合でも治療の選択肢が増えた。ただ、投与が遅れるほどリスクも高まるため、病院側は救急隊との連携を強化するなど搬送時間の短縮に努めている。
tPAを投与できる時間が限定されているのは、血管の詰まりを解消できる半面、もろくなった血管を傷つけて出血する恐れもあるためだ。欧州の研究チームが2008年に「発症後4時間半たった患者でも治療効果がある」と発表したことを受け、欧米では先行して発症後4時間半まで使われていた。
順心病院の潤井誠司郎院長は「病院での精密検査などは約1時間かかる。搬送の猶予が大幅に延びたことで救命率は高まる」とする一方で「遅くなるほど条件が悪くなることに変わりはない。一刻も早い投与を目指すことが重要」と指摘。日本脳卒中学会も搬送後、遅くても1時間以内の使用が望ましいとしている。
同病院は搬送時間を短縮するため、地元の消防当局と勉強会を定期開催。搬送後の患者の回復ぶりを医師が救急隊員らに伝え、搬送手段の改善点なども話し合っている。