もともと持っている疾患が引き金となる場合もある。その一つが「奇異性脳塞栓症」だ。心臓の中で右心房と左心房の間にある「卵円孔」という穴は、通常は生後まもなく閉じる。しかし、健康な人でも十分に閉まっていない場合が2割ほどある。
日常生活に支障はないが、何らかの原因でできた血の塊(血栓)が、重い物を持ったり排便時にいきんだりした際に卵円孔を通って右心房から左心房に移ることがある。この結果、血栓が動脈内を流れ脳で詰まってしまう。例えば、車中泊など狭い場所で同じ姿勢を長時間続けた際に起こる「エコノミークラス症候群」(深部静脈血栓症)により、足の静脈に血栓ができた時などが危ないという。
「もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)」も注意が必要だ。脳の特定箇所の血管が細くなったり詰まったりして、その周辺に細い血管がたくさんできる病気で、画像診断で血管が煙のように見えることが名前の由来だ。日本人や韓国人などに多く、子供でも脳梗塞を起こすケースがある。
「熱い食べ物をさまそうと、フーフーと息を強く吹きかけた際に意識を失ってしまうケースがこの病気が疑われる」と豊田部長は指摘する。この病気が判明したら、バイパス手術などで血流をよくする治療を受けると、脳梗塞の発症予防に効果がある。このほか、血液が固まりやすくなる「血液凝固異常症」も若年性脳梗塞のリスクを高める。
こうした病気が原因でも、動脈硬化が進んだ場合でも脳梗塞を発症したら、素早く医療機関に駆け込むことが重要だ。りんくう総合医療センターの森内秀祐脳神経センター長は「発症が疑われる場合は即座に救急車を呼ぶべきだ」と訴える。早めに治療すれば、それだけ後遺症が出る確率が低くなるためだ。
脳梗塞を含む脳卒中で表れる現象を知っていれば、とっさの判断に役立つ。専門家が強調するのが「FAST」だ。Fは顔のまひ、Aは腕のまひ、Sは言葉の障害、Tは発症時刻を指す。顔の片側が下がる、片腕に力が入らない、ろれつが回らないなどの症状がみられた場合は脳梗塞の可能性があり、すぐに受診しよう。
治療は血栓を溶かす薬を投与したり、カテーテルを血管内に入れて血栓を取り除いたりする。ただこうした治療法が実施できるのは、それぞれ発症後4時間半以内、8時間以内だ。有効な治療を受けるためにも早期の発見と受診が欠かせない。
(新井重徳)
[日本経済新聞夕刊2013年3月15日付]