赤坂大歌舞伎「怪談乳房榎」勘九郎襲名、見事に着地

亡き勘三郎がTBSと始めた「赤坂大歌舞伎」。今回は赤坂ACTシアター5周年シリーズの一環として勘九郎襲名の掉尾(とうび)を飾る公演であり、また勘九郎・七之助兄弟にとっては親の庇護(ひご)を離れた自分たちの責任芝居でもある。

「怪談乳房榎」は三世延若から勘三郎が伝授されて復活。以来、20年余続く歌舞伎ブームの端緒となった記念すべき作でもある。三遊亭円朝原作の江戸の怪異譚(たん)が、上方の大衆娯楽劇として伝承されて現代によみがえった経緯には、今日の歌舞伎の在り方に示唆するところが多々ありそうだ。円朝の作は「牡丹燈籠」や「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」に比べると地味だが、それを早変わりで見せる芝居に作り直したところが秀逸。延若から勘三郎、さらに勘九郎へと見事に継承され、現代歌舞伎のレパートリーの一角に定着したと見てよい。

勘九郎は絵師・菱川重信、素朴な下男・正助、ならず者の蟒(うわばみ)三次と、全く性格の違う3役を的確に演じ分ける。早変わりが鮮やかに決まるのは役の把握がしっかり出来ていればこそで、襲名以来の大飛躍から見事に着地。確実な一歩を踏み出した。とりわけ三次では勘三郎かと錯覚させる瞬間が幾つもあった。

七之助のお関も不得要領とも取れる人妻の微妙な感じをうまく見せる。芸が大人になった表れか。獅童の磯貝浪江は色悪としての得難い柄と存在感で芝居のキーポイントとしての役目を果たすが、お関に言い寄るところなど余りにストレートで、芸に陰影がほしい。亀蔵演じる松井三郎を序幕と終幕に登場させ、浪江の前歴を明らかにしたのが脚本上の新しい試み。その序幕を隅田堤にして、背景の対岸に中村座が描き込んであるのはご趣向か。24日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)