アート&レビュー

日経小説大賞

日経小説大賞 過去3回の受賞作

2013/3/9 日本経済新聞 朝刊

第1回 武谷牧子「テムズのあぶく」

2006年の第1回受賞作は武谷牧子氏の「テムズのあぶく」。英国ロンドンの街を舞台に、ともに離婚経験のある40代半ばの女性と50代の男性が主人公のオーソドックスな恋愛小説だ。

住宅街の並木道で偶然出会った気鋭の舞台演出家である女性と、日本の大手電機メーカー駐在員の男性。ためらいながらも、仕事の愚痴を言い合ったり、明るい南欧の旅に出たりと不器用なつきあいを重ねていく。だが、2人が「最高の恋をつかんだ」と確信したとき、突然思わぬ障害が立ちはだかる……。

選考会では通俗性が議論となったが、逆にその通俗性が評価されての受賞となった。

第2回 萩耿介「松林図屏風」

2008年の第2回受賞作には、桃山絵画の巨匠・長谷川等伯とその一門を主人公とした萩耿介氏の「松林図屏風」が選ばれた。

家族を連れて能登から上京、絵師として活動を始めた長谷川信春(等伯)は永徳率いる絢爛(けんらん)豪華な狩野派全盛の世にあって不遇をかこっていた。天正10年6月、本能寺の変。天下は移り、等伯は独自の画風で次第に地位を確立していくが、かつて堺の商人から聞いた言葉が頭を離れない。「絵師の本分」とは?

等伯が活躍したのは政治から経済、宗教まで日本の権力構造が激しく揺れ動いた時代。その空気をすくい取り、謎が多い絵師の生涯に迫った。

第3回 梶村啓二「野いばら」

2011年の第3回受賞作、梶村啓二氏の「野いばら」は、21世紀の英国と幕末の横浜を自在に往還して紡がれた歴史ロマン。選考委員満場一致の高評価で選ばれた。

妻と別れ、心にぽっかり穴の開いた30代の醸造会社勤務の男が欧州に出張中、かつての英国軍人の手記を偶然手にする。100年の封印を解かれた手記には、生麦事件直後の横浜で情報探索を命じられた軍人の、女性日本語教師への秘めた思いがつづられていた……。

「読んでいて快い」「文章に対する完璧な信頼」と絶賛された梶村氏は、このほど受賞後第1作「使者と果実」(日本経済新聞出版社)を発表した。

テムズのあぶく

著者:武谷 牧子.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,575円(税込み)

松林図屏風

著者:萩 耿介.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,575円(税込み)

野いばら

著者:梶村 啓二.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,575円(税込み)

アート&レビュー 新着記事

ALL CHANNEL