中央アジアのタクラマカン砂漠やゴビ砂漠、黄土高原では、春先に強風で大量の砂ぼこりが舞い上がり、上空の偏西風に乗って運ばれる。これが黄砂だ。2月下旬~5月上旬に発生し、日本では関西以西を中心に1年に30日ほど観測される。
粒径が約4マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルで、スギ花粉の10分の1ほどしかなく、肺の奥まで入りやすい。同2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質(PM2.5)も含んでおり、一部は血管にも入り込む。粒子に付着した様々な微生物や大気汚染物質が肺などの炎症を引き起こす。台湾や韓国では、黄砂が多いときに心臓や肺の病気で死亡する人が増えるという報告がある。
日本で健康影響がわかってきたのが、ぜんそくなど肺の病気だ。京都大学の金谷久美子医師らは富山大学と共同で、黄砂が小児ぜんそくで入院するリスク(危険性)を約2倍悪化させるという疫学調査の結果を公表している。2005~09年の2~4月にかけて、富山県内の基幹8病院に入院した1~15歳の620人を調べ、黄砂と入院との関係を比較した。
その結果、黄砂が観測されてから1週間は、ぜんそくの発作を起こすリスクが普段の日の1.8倍と高い状態が続くことがわかった。小学生に限ると3倍を超した。男子は小中学生を通して発作を起こしやすく、リスクが2.3倍になった。金谷医師は「小学生や男子生徒は外で遊ぶ機会が多く、黄砂を吸い込んで影響を受けやすいのではないか」と推測する。国立環境研究所が福岡県で実施した調査でも、似た結果が出ている。
血管に入った黄砂による炎症反応で内壁の塊がはがれて脳の血管が詰まり梗塞を起こすリスクも懸念されている。九州大学の北園孝成教授らは、福岡県の主要病院に救急搬送される脳梗塞患者6352人について調査。黄砂が観測されてから3日間に搬送される急患は普段の時期に比べて7.5%増えた。言語障害や手足のまひなどを起こす重症タイプに限ると、リスクは1.5倍になった。