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国立劇場「摂州合邦辻」ほか 咲大夫力演、心の激流鮮やか

2013/2/22 日本経済新聞 夕刊

 住大夫の出演がないのがさびしい今月の文楽だが、第1部「摂州合邦辻」の咲大夫が興行を支える力演だ。世を捨てながらも、人の道をはずれない合邦。邪恋をしかけた娘の玉手を手にかけるが、意外な忠義を明かされ、オイヤイと慟哭(どうこく)する。合邦庵室の段の大詰め、心の激流がそこに。

玉女の伊左衛門と勘十郎の夕霧

 咲大夫の合邦はいかにも武家出身らしい気迫で、ひとつの典型でもあろうか。和生のつかう玉手が恋敵の浅香姫と組み合う場面も激しい。おのずと合邦の刃が出る悲劇となる。玉手の母の嘆きのリフレイン「術なかろ苦しかろ」が燕三の三味線のドライブ感とともに文楽ならではの音響をつくり、手負いとなった後の息もまた音楽となる。

 万代池の段からの上演で、合邦をつかうのは玉也。嵐の前、それぞれに兆す心の揺れを表すのは津駒大夫・寛治。

「関取千両幟」。簑助の女房おとわ(上)と玉也の力士猪名川

 第2部「関取千両幟(のぼり)」の猪名川内より相撲場の段。力士の夫のため身を売る女房おとわを進境著しい呂勢大夫(源大夫の代演)が語る。夫の身を整える簑助のかいがいしい人形とあいまって、清涼な風が吹いた。この段、野外の相撲興行の爽快さや太鼓の響きを表す三味線の曲芸的演奏が人形浄瑠璃らしく楽しい。

 「曲輪●(くるわぶんしょう)」吉田屋の段では、夕霧の勘十郎、伊左衛門の玉女がつむぎだす恋の情景が鮮やか。けんかのしぐさに映るコミカルな情愛が胸にしみとおる。嶋大夫ほかで。2部には景事の「小鍛冶」も。

 3部は「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」四段目。文字久大夫、咲甫大夫、英大夫が語る。玉女の人形はここでもハラがあって、鱶七が大きい。1部に続いての女の犠牲はむごたらしい限りだが、そこに普遍的な真実は宿るか。今月はその一点を求めての、文楽の闘いをみる。25日まで、国立劇場小劇場。

「摂州合邦辻」万代池の段
「妹背山婦女庭訓」金殿の段。玉女の鱶七(左)と紋寿のお三輪

(編集委員 内田洋一)

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