株高でも地価冷めたまま
「バブル期ってどんな時代だったのかしら」。明日香は図書館で1989年の日本経済新聞を読んでみた。「企業“カネ余り天国”」「懐は“春一番”」と景気のいい見出しが並ぶ。リゾートマンションやゴルフ会員権の広告も目に付く。
85年初めに1万2000円だった日経平均株価は、89年末にはおよそ3倍の3万8915円の最高値を記録。地価もどんどん上がり、日本の土地をすべて売れば、米国全土が4回買えるとまで騒がれていた。「資産の価格が本来の価値を離れて上がるので泡(バブル)といわれるのね」
「株は上がるものだと信じていました」。明日香が、バブル期に証券取引所の立会場で株を売買していた大和証券ビジネスセンター照会業務部次長の渡辺安良さん(49)を訪ねると、当時の熱気を振り返った。
「今とは随分かけ離れていたのね」。ただ、日経平均は昨年10月末から約25%も上がっていた。「“アベノミクス”がきっかけね」と、明日香は最近の記事を読み直した。アベノミクスとは安倍晋三首相が金融緩和、財政政策、成長戦略の3つの柱を通じて景気回復を実現する構想のこと。政策への期待から円安が進み、自動車や電機など輸出企業の業績がよくなるとの思惑で株が買われている。
SMBC日興証券チーフエコノミストの牧野潤一さん(46)に意見を聞いた。「もう“円安バブル”が起きているかもしれません」と牧野さん。為替は日米の物価や金利などから計算すると1ドル=80円台が妥当な水準だが根拠のない期待が先行し円安が進んでいるという。「主に海外勢が日本株を買っています。円安で不利になる業種まで上がっています」と当惑気味だ。
「バブルの再来?」。明日香が身を乗り出すと「今は銀行への規制が厳しいのでそれはないでしょう」と牧野さん。80年代は銀行が融資を競って世の中に流通するお金が膨らんだ。今は貸し出しが伸びておらず「株などの売買が活発になっても、お金は市場でグルグル回るだけ」という。
「バブルが起きる条件を調べる必要があるわね」。明日香は日本大学教授の小巻泰之さんに聞いてみた。