肺がんは「小細胞がん」と「非小細胞がん」の2つに大別される。患者の8割は後者のタイプで、早期であれば手術が標準治療となる。右肺は上葉・中葉・下葉、左肺は上葉・下葉からなり、いずれかを失っても機能を維持できるため、手術ではがんのある葉ごと切除することが多い。進行が早く、転移しやすい小細胞がんは抗がん剤による化学療法が中心となる。
今回の調査で、2011年4月~12年3月の「手術あり」が369例と全国で2番目に多かった姫路医療センター(兵庫県姫路市)は手術の9割が胸腔鏡手術。開胸手術よりも出血が少なく術後の痛みも軽いことから、患者の回復が早いというメリットがある。
同センターの特徴は体内に入れたビデオカメラのモニターだけを見ながら手術を進めることだ。切開する範囲は3~4センチで済み、一般的な開胸手術(20センチ前後)と比べてかなり短い。
この手法は視野が狭くなるため、高度な技術が必要になる。宮本好博・呼吸器センター部長は「何度も胸腔鏡の撮影記録を見返し、無駄な手順や操作を省くことを徹底して精度を高めた」と説明する。

手術の安全性を高めるために助手の役割を重視している。1つのモニターを執刀医と助手が見ることで連携を強化。ベテランの医師が助手につき、若手の執刀医に助言することもある。出血が多かったり、病巣が心臓に近いことが分かったりした場合は開胸手術に切り替える。これまで約2300例のうち開胸に移行したのは約70例という。
「手術あり」が全国最多の394例だった国立がん研究センター中央病院(東京・中央)はモニターを補助的に利用している。
化学療法、選択肢に幅
8~10センチ切開し、執刀医がヘッドライトと拡大鏡で患部を見ながら手術するのが基本。浅村尚生・呼吸器外科長は「がんを完全に取り除く根治性と動脈を傷つけない安全性を考え、この手法を選んでいる。腫瘍を取り残さないよう触診で確認する」と話す。手術後は4日ほどで退院できる。
浅村外科長は肺葉を丸ごと切り取らず、がんのある部分にとどめる区域切除の臨床研究も手掛けている。腫瘍が2センチ以下の早期がん患者が対象で、リンパ節への転移がないことなどが条件。「肺の機能をどの程度まで温存できるのか、肺葉切除と比べて再発率がどう変わるのかなどを検証したい」(浅村外科長)