フラッシュバックメモリーズ 3D
個人を見つめる立体映像
「童貞。をプロデュース」(2007年)、「あんにょん由美香」(09年)等、独創的なアイデアのドキュメンタリーづくりで注目される松江哲明監督が、はじめて3D映像を駆使して撮った感動的な人間記録。
昨秋の東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。
まったく新しい3Dのつかいかたと言っていい。これまで、おもに小型ビデオの機能を活用して、劇映画ではできないような個人の見つめかたをしてきた松江哲明は、ここでも個人を見つめるために、デジタル3Dの鮮明な映像をつかう。
「ある一人の人間を長く見つづけるのに3Dは適している」と松江は言う。
見つめられる、この映画の主人公となるのは、GOMA。オーストラリアのアボリジニ(先住民)の楽器ディジュリドゥーを演奏するミュージシャンだ。
彼は2009年11月に交通事故で外傷性脳損傷をおこし、記憶の多くを失い、新しい記憶を保持することも困難な状態となる。
リハビリをつづけるが、「昔の写真やビデオを見ても、なんでみんなが笑っているのか分からない」「自分は誰なのか? なぜ生きているのか?」と悩みくるしむなか、からだが音楽だけはおぼえていた。約1年半後、大震災の直後に演奏復帰する。
映画は、GOMAとその仲間(リズム・セクション)の演奏を3Dでとらえ、その背後に、あるいは途中に2Dで彼の失われた記憶の映像(活動のドキュメントやホーム・ビデオ)をフラッシュバックさせる。
家族とともに「第二の生」に希望を託す彼の覚悟と、原始的な生命力にあふれた音楽の魅力がひとつになって、こころをゆさぶる。
もっとこの演奏を聞いていたい、見ていたいと願う観客の気もちにこたえるかのようなラストのライブ感は圧倒的だ。1時間12分。
★★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2013年1月11日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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