胃がん治療、腹腔鏡手術が浸透 使い分け進む日経実力病院調査2012

胃がんは年間12万人近くが発症し、がんの中で患者数が最も多い。初期であれば内視鏡を使って治療でき、5年生存率は100%に近い。内視鏡で切除できないケースでも体の負担が少ない腹腔(ふくくう)鏡手術を選択する病院が増えている。日本経済新聞社の実力病院調査によると、症例数が多い病院は腫瘍や患者の状態を慎重に見極めながら、治療法を使い分けていた。

進行度に応じて選択

胃がんは胃の粘膜から発生し、5層からなる胃壁の深部へと進行する。表面の粘膜にとどまっている初期の段階はリンパ節やほかの臓器に転移している可能性が低く、開腹せずに内視鏡で治療できる。学会の治療ガイドラインによると、「大きさが2センチ以内」「潰瘍がない」などの条件を満たした場合が対象となる。

早期胃がんの内視鏡手術(大阪市東成区の大阪府立成人病センター)

内視鏡を使った治療には2つの方法がある。患部の下に生理食塩水を注入して腫瘍を浮かせ、ワイヤを引っかけて高周波電流で焼き切る「EMR」と、腫瘍の周囲と下部にナイフを入れて剥離する「ESD」だ。

大阪府立成人病センター(大阪市)の上堂文也・消化管内科副部長は「ESDはEMRよりも診断範囲を確実に切除するので取り残しが少ない。その分、時間がかかり出血もしやすいため、高い技術が必要」と話す。同病院の内視鏡切除術は全国で3番目に多い215例。このうちの95%以上はESDという。

同センターは臨床研究として、2センチ以上の粘膜がんのほか、潰瘍のあるがんでも3センチ以内であれば内視鏡で切除することもある。「重要なのは、がんの大きさよりも深さ」(上堂副部長)といい、ガイドラインの適応を超える病変でも、粘膜がんと判断すれば内視鏡で治療する。

そのためには正確な診断が不可欠で、同センターは特殊な波長の光で精密にがんの範囲を検査できる内視鏡を導入している。ただ機器の性能の過信は禁物だ。「診断力は医師の経験によるところが大きい。施設の診断力を測るには、内視鏡治療の年間症例数が一つの目安になる」(同)

粘膜の下層に到達している早期がんや進行がんでは、胃を切除する外科手術が必要になる。腹部に開けた小さい穴からカメラや器具を入れる腹腔鏡手術は開腹する場合よりも体への負担が小さく、件数が伸びている。早期がんを対象とした腹腔鏡手術は臨床研究として実施されている。

内視鏡を含む手術件数が全国最多の780例だったがん研有明病院(東京・江東)は開腹と腹腔鏡をほぼ同率で実施している。

どちらの方法にするかはガイドラインや患者・家族の意向を踏まえ、消化器系の臓器に詳しい医師らでつくる「キャンサーボード」が方針を決める。腹腔鏡は早期がんでも内視鏡で粘膜下層をはがせない例で選択。進行がんは広くリンパ節まで取り除く必要があるため、開腹手術を選ぶ。抗がん剤を併用しながら治療を進めることで、5年後生存率を改善している。

同病院は消化器センターを設け、外科、内科治療、緩和ケアなどによるチーム医療を実施。山口俊晴・同センター長は「初診から1週間で診断し、確定後2週間以内に治療を始めるのが目標」と説明する。

患者の約7割は他院からの紹介だが、必ず内視鏡を使って再検査し、がんの正確な場所、深さ、広がり方などを改めて確認する。肝臓やリンパ節への転移などを調べるため、コンピューター断層撮影装置(CT)を併用している。

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