血液などから患者の遺伝子を解析し、最適な鎮痛薬を選んで投与量を決める――。近い将来、こんな治療法が広がるかもしれない。東京都医学総合研究所は東京歯科大学と組み、下顎の形成外科手術を受けた患者の痛みを抑えるのに必要な鎮痛薬の量と、遺伝子配列の特徴に関係があることを突き止めた。
約360人の患者の口腔(こうくう)粘膜を採取。遺伝子配列のわずかな違いを示すSNP(一塩基多型)の中から、モルヒネに似たオピオイドと呼ばれる鎮痛薬の必要量と関係が深いものを見つけた。マウスの実験結果なども踏まえ、患者のSNPの解析データから鎮痛薬の投与量を決める計算式を作った。
2012年から東京歯科大水道橋病院でこの計算式を使った投薬を始めている。今後は他病院の協力も得て、オピオイド以外の鎮痛薬の量とSNPとの関係なども明らかにする方針だ。様々な神経障害性疼痛の治療に生かす考えで、「3~5年内に実現したい」(都医学総研の池田和隆プロジェクトリーダー)。
神経障害性疼痛に悩む患者は多い。日本大学医学部の小川節郎教授らは10年、インターネットを使い20~69歳の約2万人に痛みについて聞く大規模調査を実施した。慢性の痛みがあると答えたのは26.4%で、その約4人に1人は神経障害性疼痛が疑われた。
調査結果から小川教授は全国に成人の慢性疼痛患者は約2700万人おり、このうち神経障害性疼痛は約660万人と推定する。多くは腰、背中、尻などの痛み。「焼けるような」「ひりひりする」「ピーンと走るような」「むずがゆい」などと表現される。
神経障害性疼痛は帯状疱疹(ほうしん)にかかった後や糖尿病などに伴って起きやすい。手術で細かい神経が障害を受けた場合や神経の通り道が狭くなり起きる脊柱管狭窄(きょうさく)症でも発生する。心理的な要因が重なることもある。ピンポイントで原因を特定し一気に治すのは難しいという。「短い診察時間内に患者はどう痛いか十分に説明できず、医師もとりあえず保険適用になる病名を告げて終わりという例も目につく」とある専門医は明かす。