アート&レビュー

舞台・演劇

SCOT「シンデレラからサド侯爵夫人へ」 体が非日常に飛躍する瞬間

2012/12/21 日本経済新聞 夕刊

異質なものを出合わせ、新しい表現を生みだす。演劇で40年以上もそのことに取り組み続ける演出家、鈴木忠志の意志の力に改めて驚かされる。けいこ場の実況という趣向の、異色の舞台だ。

鈴木演出は戯曲のある部分をしぼりあげ、劇の根を抽出する。鍛えられた刀のような役者の身体から、世界のありようを探りあてるのだ。今回は2時間余、個性的な児童劇と三島由紀夫の華麗なセリフ劇(2幕)の2題。演出家や音響スタッフの役もあって、音の合わせ方などを実録的にみせる。

三島の美麗なセリフに重ねられるのは美空ひばり。能をもとに独自の演技メソッドを築いた演出家は、これまでも緊張した身体に意外な歌謡曲を合わせてきたが、その見本。いつも以上に歌の比重が大きく、役者の孤影も深い。

不在の男をめぐる女だけのセリフ劇である「サド」は幻想が現実を拒むクライマックスが有名だが、ここではその兆し、侯爵夫人(佐藤ジョンソンあき)と母(斎藤真紀)の相克に焦点を合わせる。世界を維持する力と破壊する力のせめぎあい。そのことによって、身体に不穏なエネルギーが満ちてくる。女優の眼光の鋭さがただならない。前段は女生徒の幻想という形をとる「シンデレラ」。身体訓練の場面に意表をつかれる。

ふつうのお芝居とかけ離れているから、戸惑う観客もいよう。能がそうであるように、これは人の体が非日常の世界に飛躍する瞬間瞬間を味わう演劇。いわば演技の神秘を体験する「教室」だ。

厳格な演出術を続ける大変さ。演出家役はヤレヤレと引っ込む。この間の抜けた喜劇の間合いは、増してきたかにみえる鈴木演出のもうひとつの味だ。古参の蔦森皓祐がスタッフ役で出演。24日まで、吉祥寺シアター。

(編集委員 内田洋一)

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