父親は行方不明、母親は事故で植物状態。17歳の兄、12歳の弟、6歳の妹。彼らに残された母の介護と莫大な債務地獄。この小説の起点にあるのは、ネガティヴな要素の凝縮ばかりだ。絶望の3乗、そこからどうやって「歓喜」のゴールを目指せるのか。
物語は、3人兄妹の視点をとおして交互に語られる。彼らの住まう下層アパートも、妹の通う幼稚園も、多国籍の「難民」たちが吹き寄せられ、グローバル世界の矛盾のサンプルのようだ。
3人はそれぞれ、現実意識を欠損させていく。兄は紛争地域の地元民少年の仮想人格を想像し、弟は色彩を認知できなくなり、妹は人に見えない者を見る「超能力」を身につける。兄の幻視する交戦地帯の情景が鮮烈だ。少年はドラッグ密売の末端で働かせられながら、見知らぬ異国の戦争に「同一化」してしまう。
彼らのドラマを現代日本の貧困の寓話(ぐうわ)とするのは、短絡にすぎる読み方だろう。だが、ここには、子供たちの「悲惨」がたんに日本一国の問題ではない、という確固たるイメージ喚起力がある。『永遠の仔(こ)』の著者は、新たな物語の地平に到達したようだ。
★★★★★
(評論家 野崎六助)
[日本経済新聞夕刊2012年12月12日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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