ソロモンの偽証 第1部~第3部 宮部みゆき著社会と家庭の歪み映す裁判劇

2012/11/19

中学生の墜落死事件を描く4700枚の大作で、第1部『事件』、第2部『決意』、第3部『法廷』という全3巻の構成だ。時代設定は1990年から91年。

 クリスマスの朝、中2の男子の遺体が発見される。警察は校舎の屋上からの飛び降り自殺と判断するが、匿名の告発状が校長たちに届き、殺人の疑いが出てくる。不良生徒3人が突き落としたというのだ。さらに事件が相次ぎ、混沌とするが、学校側は校長の辞職で幕引きをはかる。

 翌年の夏、中3になった女子生徒が真相究明に乗り出し、級友たちと語らい、学校内裁判を行うことを決める。被告は不良生徒のボス、罪状は殺人罪。生徒たちが判事、検事、弁護士、陪審員の役を担い、教師と親たちが見守るなか、前代未聞の陪審劇が始まる。

 第3部が圧巻であり、おそらく裁判劇が最初のモチーフだったのだろう。ただ事件の発端と周辺の人物像を書き込んでいくうちに、関係者たちの視点にたってすべてを物語りたくなり、謎解きを目的とした純粋なミステリーから謎含みの普通小説へとシフトする。

 とはいえ、初期の『魔術はささやく』『龍は眠る』以降、少年少女たちの描写にかけては右に出る者はいない作者である。友情、愛情、悪意、嫉妬、暴力などを生徒同士のみならず複数の家族を通して捉えていて胸に迫る。特に第3部『法廷』に至り、法廷劇として輝きだし、張られていた伏線がすべて回収され、意外な事実の連続となる。しかも驚くべき証人も登場して、裁判が白熱化していく。

 しかし注目すべきは裁判が、犯罪の有無の検証よりも、いつの時代でも苦悶(くもん)せざるをえない少年・少女たちの精神情況(じょうきょう)を詳(つまび)らかにするためのものであることだ。「この裁判で、誰も勝つことなんかできないよ。……みんな泥だらけ、傷だらけで、何ひとつ得なんかない」という言葉が出てくるが、それは社会や家庭の歪(ゆが)みが子供たちの精神を脅かす現実を伝えているからである。そこにはまた、それでも強く生きてほしいという作者の熱い思いも込められている。きわめて異色の裁判小説として読み継がれることうけあいの秀作だ。

(文芸評論家 池上冬樹)

[日本経済新聞朝刊2012年11月18日付]

ソロモンの偽証 第I部 事件

著者:宮部 みゆき.
出版:新潮社
価格:1,890円(税込み)

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