田渕俊夫展静穏さに隠れた行動力

2012/11/1

キャリアを長く、しかもたゆみなく積んできた画家ならではの手ごたえを伝えている。福島県立美術館(福島市)で開催中の田渕俊夫展を見てそう感じた。高度な腕の持ち主だが、技量をてらわず、声高に主張しない姿勢にも引かれた。

田渕は1941年生まれの日本画家。同展には東京芸術大学在学中から今年の作品まで約50点を出品している。展示全体に流れる落ち着いた雰囲気と丁寧な筆致は、厚い伝統がある院展を舞台に活躍してきた画家にふさわしい。が、経歴や制作の変遷を子細にたどれば、行動力に富み、表現に工夫をこらす画家であることが分かってくる。

例えば「濃尾三川」は小型飛行機をチャーターしたり、地図を参照したりして河口の景色を描き、旧来の日本画とは味わいを異にする視点と線の動きを実現させている。「緑溢(あふ)れる頃」は十数年前から本格的に取り組み始めた水墨の緻密な技を示す作品。和紙に墨だけで描いてあり、固有の水墨表現をつかみ取っているのが分かる。

実際の行動半径も広く、題材は身辺の草花から、中国や欧州、インド、アフリカなどの風景にも及んでいる。いずれの絵も綿密な観察に基づいているのが読み取れ、絵心に触れるものがあれば、即座にスケッチブックを取り出し、題材に向かって歩み出すこの画家の姿が浮かんでくる。

展示の最後に並ぶ「惶(こう)1」「惶2」は東日本大震災の後に描かれ、福島県立美術館への寄贈が予定されている。「自然の脅威」がテーマだという。過去の作品に比べ、画家の戸惑いが絵に強く表れているように見える。大震災の衝撃がいかに大きかったかを物語っている。11月25日まで。

(編集委員 宝玉正彦)

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