メインストリーム フレデリック・マルテル著文化をめぐる世界の競争論じる

2012/10/22

商品としての文化の生産と流通は、グローバル化の主戦場の一つである。価値の源泉がますます物理的なモノからアイデアやデザインに移る今日、本書の著者が創造産業と呼ぶメディアやコンテンツの市場は経済的に大きな意味を持つ。国際政治においても相手国の世論に直接アプローチするパブリック・ディプロマシーの重要性は高まっており、創造産業には戦略的な意味さえある。

(林はる芽訳、岩波書店・3600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 本書は、この分野では既に名の通ったフランスのジャーナリストによる文化の政治経済のグローバルなパノラマである。全体は大きく二部構成。前半はアメリカにおける創造産業の歴史。中心は映画産業だ。著者はそこにアメリカのソフト・パワーの基軸的なダイナミズムを看取する。すなわち観(み)る者を選ばない「メインストリーム」作品のあくなき追求である。メインストリーム化は一面では文化の民主化だが、他方で文化の画一化でもある。そして常にフロンティアを求め、新しい要素を包摂してこの矛盾を乗越(のりこ)える力こそがアメリカの文化的ヘゲモニーの底堅さだと著者は指摘する。この点、アメリカの女性文化人を取り上げ、ジャンルの垣根を取り払う上で彼女たちが果たした役割を指摘した第7章は特に興味深かった。

 後半ではこのアメリカのヘゲモニーに世界の各地域がどう対抗しようとしているのかが論じられる。J―POPや韓流ドラマはもちろん、インドのボリウッド映画やイスラム圏のメディア戦略、さらには中南米の首都としてのマイアミの重要性やヨーロッパにおける反メインストリーム文化にまで話は及ぶ。共通するのは各地域ともアメリカのヘゲモニーからの自立を目指しながら互いに競争しあっており、そしてその戦術が多かれ少なかれメインストリームをベースとしていることだ。いまやアメリカ自身もこの競争に巻き込まれつつあり、文化のグローバル化は言わばメインストリームが多元的なヘゲモニー闘争に開かれる局面にある。

 2段組み450頁(ページ)超の大部だが、臨場感のあるインタビューと時折入る醒(さ)めた批評がキビキビしたドキュメンタリー映画のような展開感を与え、一気に読ませる。

(立命館大学教授 山下範久)

[日本経済新聞朝刊2012年10月21日付]

メインストリーム――文化とメディアの世界戦争

著者:フレデリック・マルテル.
出版:岩波書店
価格:3,780円(税込み)

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