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白血病ウイルス原因の脊髄症「HAM」 関東・近畿で増加 歩行や排尿に障害 治療難しく

2012/10/19 日本経済新聞 夕刊

歩行や排尿などに障害が出る難治性の脊髄症「HAM」は長い間、原因ウイルス「HTLV―1」(成人T細胞白血病ウイルス)の感染者が多い九州や沖縄の風土病とされてきた。近年は関東や近畿などの大都市圏で発症者が増加。政府が全国的な対策に乗り出したが、専門医はまだ少なく、診療レベルにばらつきがあるなどの課題も多い。

「両足は常にしびれている。立つときに、足が突っ張るのが一番つらい」。鹿児島市の山下真由子さん(57)は膝を震わせながら、激痛に顔をゆがめた。

国は風土病と認識

発症は2000年。足に違和感があり、ハの字のように内股でしか歩けなくなった。病院を受診したところ、すぐに入院を勧められた。足は1週間で動かなくなり、05年ごろまで入院してリハビリを続けた。

現在は自宅で生活し、屋内ならつえを突いて何とか歩けるが、外出時は車いすを使う。手の力が入らず料理は難しい。転倒で肋骨を何度も折った。

母親もHAM患者で、成人T細胞白血病(ATL)を併発して亡くなった。山下さんの3人の子供のうち次女(30)と長男(23)はキャリア。「母乳感染だと思う。知っていたら母乳を与えなかったのに……」と涙を流し、「早く薬を開発してほしい」と願う。

HTLV―1を巡っては、旧厚生省の研究班が1990年度、母子感染について「全国一律の検査や対策は不要」と提言。鹿児島や沖縄などの西南日本に多い風土病で「放置しても感染者は自然に減少する」という意識が広がり、国の対応の遅れにつながった。

ところが08年度、約20年ぶりに実施された疫学調査により、全国の感染者は推計108万人で88~90年度の120万人から大きな変化がないことが判明した。地域別では九州が前回調査の50.9%から41.4%に減少した一方、関東17.3%(前回10.8%)、近畿20.3%(同17.0%)など大都市圏で増加した。

政府は10年、HTLV―1総合対策をつくり、妊婦検診での感染検査を始めたほか、関連疾患の研究補助金枠を設けた。しかし医療提供体制はまだ不十分だ。

新薬の開発進む

最近、歩行がほとんどできなくなってきたというNPO法人代表の菅付加代子さん(右) (5日、鹿児島県霧島市)

国に総合対策を求めてきた特定非営利活動法人(NPO法人)「日本からHTLVウイルスをなくす会」(鹿児島市)によると、HAMの専門外来はまだ全国で数カ所しかない。代表の菅付加代子さん(55)は「近くに専門医がいないため、悪化を食い止められない患者も多い」と話す。

鹿児島大難治ウイルス病態制御研究センター(鹿児島市)の出雲周二教授は「診療レベルにばらつきがあり、適切とは言えない治療がなされているケースもある」と指摘する。

HAMはステロイドやインターフェロンで脊髄の炎症を抑えるが、骨粗しょう症や糖尿病、全身倦怠(けんたい)感などの副作用を起こす恐れがある。

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