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エコノ探偵団

公立図書館の運営に書店が相次ぎ参入 その理由は

2012/10/16 日本経済新聞 プラスワン

「公立図書館の運営に書店が相次ぎ参入しているらしいぞ」。神田のご隠居、古石鉄之介が事務所にやってきた。探偵、松田章司は驚いた。「タダで本を貸す図書館と本を売る書店は相性が悪いようだけど」。首をかしげながら調査を始めた。

■納入に有利、売れ筋把握

章司はご隠居から聞いて東京都千代田区立の日比谷図書文化館を訪ねた。同区が都立図書館を引き継いで内装などを一新。2011年11月に再開した。「借りる前の蔵書をレストランに持ち込めるのは珍しい。館員もきびきび動いているようだ」。目を丸くしていると、館長の若林尚夫さん(68)が声をかけてきた。

「私を含め約70人の民間スタッフで館の大部分を管理、運営しているのです。効率的で気持ちの良いサービスを心がけています」

区から受託する民間5社のコンソーシアム(企業連合)は16年度まで契約。貸し出しや返却といったカウンター業務、図書購入などを請け負う。12年度の収入は、区から得る4億円強の指定管理料に市民文化講座の受講料などを加えた約4億9千万円の計画。ここから人件費を中心とする必要経費を差し引いた残りが民間のもうけになる。

公共施設の運営などを民間に事実上“丸投げ”できるこうした仕組みが「指定管理者制度」。地方自治法の改正で03年9月に始まった。日比谷図書文化館の場合、代表企業は出版大手出資の小学館集英社プロダクション(東京都千代田区)で、若林さんも所属する。

章司が「書店も運営に加わっていると聞いたのですが」と尋ねると若林さんが答えた。「仲間の図書館流通センター(TRC)が図書館向け専門の大きな書店です」

章司を迎えたTRC社長の谷一文子さん(53)は説明した。「公立図書館の7割に本を売っています」。同社は計338館の運営にかかわる。08年1月開館の長崎市立図書館では企業連合の一員として15年間の契約を勝ち取った。

身近な書店も図書館を運営。紀伊国屋書店が指定管理者を務めるのは13館だが、常務の藤則幸男さん(54)は「開拓余地は大きいです」と期待する。公立図書館の8割ほどは外部委託をしていないためだ。

「運営に成功し貸し出しが増えれば、本の売れ行きが落ちて困るのでは」。藤則さんが答えた。「運営に加われば、その図書館に対する書籍の売り込みで有利になれます。どんな本が人気なのかもわかります」

出版科学研究所(東京都新宿区)の推定では、書籍販売額は11年が約8200億円で5年連続の前年割れとなった。日本図書館協会(同中央区)の資料をみると、このうち公立図書館の購入額は3%程度と考えられるが、安定的な販売先として注目されている。

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