「86キログラムあった体重が2年で72キログラムに減り、体脂肪率も30%から19%に下がった」。理化学研究所の辨野(べんの)義己特別招聘(へい)研究員は、ヨーグルトを食べ始めた14年ほど前の体験を振り返る。花粉症の症状も軽くなった。
ビフィズス菌入りのヨーグルト500グラムに繊維や菌の養分となるオリゴ糖を含む豆乳、バナナなどを加えてミキサーにかけて毎朝摂取。野菜スープもとり、筋力トレーニングを欠かさず実施した。肉中心の食事も改め、魚や海藻類を多くとるようにした。悪玉菌はウェルシュ菌が便1グラムあたり約1億個から100個以下に激減するなど、全体として減った。
腸内菌は健康な成人の便1グラムあたり約1兆個あり、腸全体で600兆~1000兆個と推定される。乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は2割、悪玉菌が1割程度ある。その他はわかっていないものも多い。
乳酸菌は便1グラムあたり1000万~1億個ほどで、ブドウ糖を分解してできる生成物の5割以上が乳酸だ。ビフィズス菌は別種で、同1000億個程度と膨大な数があり、オリゴ糖を分解して乳酸と酢酸をつくる。これらの酸は悪玉菌を排除し、善玉菌の比率を高める働きがある。圧倒的に数が多いビフィズス菌の増減が腸内環境を左右するとされる。
辨野特別招聘研究員の場合は摂取したビフィズス菌が腸内の悪玉菌を抑える一方、もともとあったビフィズス菌を増加させた。できた酸で腸が刺激されてぜん動運動が活発化し、排便もスムーズになった。ビフィズス菌はコレステロールの生成プロセスを邪魔する働きもあり、太りすぎの解消につながったという。アレルギー反応にかかわる免疫関連の細胞にも働き掛け、花粉症も改善したとみている。
順天堂大学の山城雄一郎特任教授は「ビフィズス菌の働きは赤ちゃんにとっても欠かせない」と指摘する。胎児は無菌状態だが、出産の際に産道を通りながら母親のビフィズス菌を取り込む。母乳中のオリゴ糖の効果もあり、生後半年で腸内菌の大半がビフィズス菌になるという。
順天堂医院では帝王切開で未熟児を取り出し保育器でしばらく育てる場合、チューブでビフィズス菌を鼻から入れる。悪玉菌を減らし敗血症の発生や腸の組織が死ぬのを防ぐという。幼児が離乳食を取り出すとビフィズス菌の比率は徐々に下がり、小学生でほぼ成人と同水準になる。