ライフコラム

エコノ探偵団

デジタル時代に文房具市場が熱い理由

2012/10/2 日本経済新聞 プラスワン

「最近、ペンやノートの面白い新製品が増えたような気がする。文房具が人気らしいよ」。探偵、松田章司は飲み会の席で大学の先輩に話しかけられた。「仕事はパソコン中心なのに不思議ですね」。章司は調査を引き受けた。

■会社支給減り個人が選択

「文具売り場の売り上げは前年比でも増えて好調です」。東急ハンズ渋谷店(東京都渋谷区)を訪ねると高部直之さん(38)が出迎えた。こすると摩擦熱でインクが消えるペンや、色が濃く履歴書を書くのに適した「就活ペン」が売れ筋だ。「次々に新商品が出るのでお客さんも飽きないようです」と高部さん。

「地味な売り場だと思っていたけど、活気づいているな」。章司はメーカーの動向を知ろうと日本筆記具工業会事務局長の春田恭秀さん(58)を訪ねた。

「円高や新興国の台頭で苦しいのは他の製造業と同じ」と春田さんは説明する。100円ショップなどで売っている中国製ボールペンのコストは実に日本製の4分の1。「国内メーカーは価格ではなく品質や機能で勝負するようになったのです」。その成果もあって5~6年前から全く新しい商品が相次いだという。

民間調査会社の矢野経済研究所(東京都中野区)の推計では、2011年度の事務用品全体の市場規模は前年度比1.3%減。一方、ノートとボールペンに限ると同1.1%増。経済産業省の統計でも、ペン類の出荷額は09年の990億円から、11年に1085億円まで持ち直している。

「メーカーにも事情を聴こう」。章司はパイロットコーポレーション(東京都中央区)の営業企画グループ課長、川島俊二さん(43)を訪ねた。「10年ごろから文具ブームに火が付き、当社の“消せるペン”の販売も伸びました」と川島さん。雑誌やテレビが大きく取り上げ、手帳術やノート術を扱う書籍の出版も相次いだ。「最近はドラッグストアや書店などでも文具を扱う店が増えていますよ」

「どうして文具への関心が高まったんだろう」。章司は大手筆記具メーカーのぺんてる(東京都中央区)を訪ね、執行役員商品戦略部長の耒谷(きたに)元さん(55)に尋ねた。「ブームは08年のリーマン・ショック後の景気低迷がきっかけです」と耒谷さん。業績が悪化した企業はコスト削減のため社員に支給していたペンなどを購入しなくなり、メーカーの売り上げも大幅に落ち込んだという。

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